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College Girls Competition

A fictional story written in Japanese.

女子大生コンテスト

あらすじ 女子大の鳥人間サークルはキラキラ、それともドロドロ? 鳥人間コンテストで最初で最後の死亡事故を起こしたサークルを通して、競争社会に生きる女子大生を描く。

1

合同飛行会、私たちの機体は飛び立たなかった。

私たちのサークルは、鳥人間コンテストへの出場を目指して、合同飛行会に参加した。しかし、機体を組み立てた瞬間から接合部が不安定で、人が手を離すと翼の先端が地面を引きずるくらいだった。パイロットは機体に乗り込むことができず、ずっとスマートフォンをいじっていて、やがて外車に乗った男性に連れられて、先に帰ってしまった。

合同飛行会は、出場チームの選抜も兼ねているが、「予選」と称さないのは、鳥人間コンテストへの出場チームの決定方法が、記録の良い順ではないからである。出場チームは、書類審査と面接で審査され、本番までに確実に出場できる体制を整えられる能力があるかで決まる。合同飛行会も、その審査基準の一つである。

私たちのサークルは7年間の歴史があって、例年、大きなトラブルもなく機体を完成させてきた。だから、合同飛行会の結果がどうであっても、鳥人間コンテストに出場することができる。

2

国公立の女子大は全国に2校あり、そのうち1校が玉川女子大学である。私たちは、玉川女子大学の鳥人間サークル。おそらく全国で唯一の、女子大生のみの鳥人間サークルだ。

部員は30人弱。そのうち実際に機体を作っているのは16人で、設計チーム、組立チーム、部品加工チームがそれぞれ4人、8人、4人となっている。パイロットは2人。そのほか、サポーターコミュニケーションチームが6人、マネージャーが2人いる。マネージャーは、ウェブサイトとパンフレットの制作、写真撮影、合宿や練習場所の手配などを担当している。部長と会計が1人ずつおり、部長は組立チームの、会計はサポーターコミュニケーションチームのリーダーを兼ねている。

サークルのお金の流れについても説明しておく。まず、毎月の部費の額は、ちょっとしたアパートの家賃よりも高い。それでも足りずに、複数の企業をスポンサーにしている。「サポーター」はスポンサーを意味するダブルスピークだと思ってほしい。サポーターコミュニケーションチームは、言葉を変えれば飛び込み営業で、新しいスポンサー企業を獲得するチームである。以前からのスポンサーは、会計が直接対応している。

3

合同飛行会の失敗を受けて、設計チームのサブリーダーが、設計の見直しを主張するようになった。私はこれには賛成できない。私には、ただ自分の設計を採用させたいだけに見える。いまから何か修正する余地があるとすれば、機体全体を補強して形状を安定させるくらいだ。

私は東京工業大学の鳥人間サークルのウェブサイトを見ることにした。東京工業大学は鳥人間コンテストの強豪だ。ウェブサイトには昨年までの機体のCADデータが公開されている。何かポリシーがあってやっているのか、それとも、理由がわからないまま伝統になっているのだろうか。

東京工業大学の設計は年を追うごとに安定して、ここ数年は細部の修正しかしていない。必要がなければ創造性を求めない、ある種の合理性がある。

私たちのサークルは、昨年の設計データも満足に管理されていない。設計も製造も場当たり的で、毎年似たような失敗を繰り返している。

4

ここだけの話、機体を触らせることも危ういような新入部員や、なんとなく印象が悪くて一緒に作業したくない新入部員は、サポーターコミュニケーションチームに配属になる。その子たちは、たいていはすぐに辞めてしまう。そうでなければ、会計から指示を受けるのみで、他の部員とは顔を合わせることもない。

それよりは使い物になりそうな子が配属されるのが部品加工チーム。設計チームと組立チームが指示した通りに作ればいい、そういう立ち位置に見られてしまった子たちが配属されてくる場所だ。

私がこのサークルに入った理由は、両親と担任に志望校を言うとき理由に挙げてしまったから。大学なんて調べても違いがわからないし、説明のために理由を作り上げる必要があった。学歴がほしいだけなら浪人してでも東京大学を狙えばよかったけど、東京大学の名前を背負って生きていくのは息苦しく感じた。東大卒の女子だというだけで、セクハラや深夜残業を強いることを喜びとする男性も少なくない。

それでも、いまの私には、部品加工チームにいる理由がある。かつての私のような後輩たちの居場所を守りたい。銀座の高級クラブよりも高くつく「居場所」。スポンサーがついたり、テレビに出たり、順位をつけられたりすることには根本的に向いてない、それでも鳥人間サークルにしか居場所がない、私たち。

だから、部員加工チームのチームリーダーであることは、私の居場所でもある。

5

組立チームが休みの日、ガレージには私と、組立中の機体のみ。私は仕事に取り掛かった。誰かに見られたら問題になるかもしれない。時間との戦いだ。

接合部の強度は、ボルトを大型のものに変え、数も増やす。接着剤は、強度は期待できないが、粘性のあるものなら振動を軽減できるかもしれない。ダクトテープを巻きつけるだけでも効果がある。

消耗品は私費で購入したが、立て替え払いが認められなければ、生活に支障がある。領収証を会計のもとに持っていく。いろいろな説明を考えていたが、会計は理由を聞かなかった。ただし、品目を見れば、私が何をしたかわからないはずがない。

6

鳥人間コンテストの本番、私たちは琵琶湖にやってきた。パイロットと部長たちが揉めている。第1パイロットの体調に問題があるらしく、部長はパイロットを交代させようとしていた。第1パイロットは半泣きになって抵抗している。

私は第1パイロットを飛ばせるべきだと思った。第1パイロットは小柄だがパワーがある。第2パイロットは状況判断が的確だが、パワーでは劣る。いまの機体は頑丈さだけが取り柄の鈍重な機体だ。力任せに前に進めることができるパイロットの方が適している。

たびたび高そうな外車で第1パイロットを送り迎えしていた男性が、この騒ぎに口を挟んでいる。この二人がどういう関係か、この状況を見れば誰にでもわかってしまう。会計は150秒と書いたメモを部長に見せた。もし第1パイロットを搭乗させれば、彼女に取材した150秒のドキュメンタリー映像が放送されることを、会計は番組制作会社から聞いていた。スポンサーの獲得のためには、150秒の露出はきわめて重要だ。さらに、会計は電卓に数字を打ち込んで、外車の男性に見せた。これをやるために、会計はスマートフォンの電卓アプリではなく、スタンドアローンの電卓を持ち歩いている。会計が2度目に示した金額で、男性は首を縦に振った。会計は部長に電卓を見せた。話はこれで終わりだ。

7

番組制作会社は強豪チームと、あとは私たちのサークルの第1パイロットを撮影している。私は機体の状態を確認した。すると、ミニコミ誌のライターだという女性が、私に話しかけてきた。

女子大生だけのチームで、何か困ることはないかという質問があった。私は、作業場の安全基準が、女子に適用されるものは厳しいと答えた。例えば、空気中の有機化合物の濃度など。この質問のときだけ、ライターの目の色が変わった。いまは地域ボランティアの主婦だが、かつては環境問題の闘士だったのかもしれない。塗装は換気の時間を挟みながらになるので時間がかかる、特殊用途の接着剤は人体への影響が少ない代替成分への置き換えが進んでいない、などと回答した。特に、妊娠している可能性のある女性は、さらに安全基準が厳しくなる。いまの部長は実家が産婦人科なので、いざというときの決断が早い。さすがに産婦人科に言及したときは、ライターも当惑した表情になっていた。

8

テレビは見ない。男性が怒鳴ったり笑ったりする声が苦手だから。本も苦手だ。文章から声が聞こえてくるようだから。

機械や建築の写真ならいくらでも見ていられる。男根のメタファーのような形をしていても、声を奪われて凍りついた姿なら怖くないし、かえってユーモラスに感じられる。

9

私たちの機体はプラットフォームを飛び立ち、水平に飛行し、強豪とも肩を並べるくらいの距離に達したところで、空中でばらばらになった。

コックピットは水没し、パイロットの姿は見えない。

鳥人間コンテストの最初で最後の死者は、私たちのサークルから出た。

10

外車の男性が部室の前に乗りつけ、部長と口論になった。男性は部長の腕をつかんで無理やり車に乗せようとした。自動販売機にドリンクを補充していた男性が、最初に割って入った。大学の警備員がそれに続いた。たまたま通りかかったのか、学長も議論に加わった。

部室には、私と会計の二人だけが残された。

第1パイロットの化粧ポーチが部室に置き忘れてあった。会計はそこから妊娠検査薬を取り出して見せた。陽性。おそらく、これを知っているのは会計と私だけ。

会計は私にこう言う。「飛び立たなければ、落ちることもなかったのでは?」

平静を装っていても、私は自分の心臓の音が聞こえた。会計は私の薬指に指輪をはめた。指輪には無色透明の結晶があしらわれていた。鳥人間サークルの会計なのだから、この結晶は本物だろう。

私は別の指にはめていた指輪を、会計の薬指にはめた。ケベック橋の崩落事故にちなんだカナダの工学部の習慣をまねて、鉄の端材で作った指輪。

だから、いまでも、家計簿をつけるのは会計の役目で、家具を組み立てるのは私の役目だ。