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The Rape of Fukushima

A fictional story written in Japanese.

はだしのフクシマ

あらすじ 図書室で「はだしのヒロシマ」という呪われた本を読んでしまったボクは、転校生の大熊さんが放射能に汚染されているのではと怯える。子供たちの想像力と大人たちの迷信が交錯する、不思議なポスト3.11ファンタジー。

1

川内楢葉(かわうち・ならは)さんはわたしのいちばん大切な友達だった。あの日、楢葉と二人の帰り道、わたしはなにか忘れ物をして、それを楢葉に話した。楢葉も忘れ物をしていて、わたしのぶんもいっしょに取ってきてくれると言った。楢葉は学校にもどって、わたしは通学路の途中で待った。

わたしの忘れ物はランドセルのなかにあった。楢葉に知らせようか、それともここで待っていようか、わたしは迷った。そのとき津波警報が鳴った。わたしは消防団の人といっしょに山の上まで逃げた。

校舎は屋上まで津波に飲まれた。わたしが楢葉に会ったのは、それが最後になった。

2

転校生がボクのとなりの席になった。フクシマから来た大熊双葉(おおくま・ふたば)さん。さっそくクラスの女子たちが大熊さんを取り囲んで、ボクはあんまり出る幕がない。

ボクは東雲青海(しののめ・あおみ)。小学6年生。

クラスの雰囲気が不穏になり始めたのは、英語の授業。大熊さんがフクシマ出身だと聞くと、ネイティブの先生が「フクシマのヒトは肌が光りマスカ?」と言って、教室の電気を消した。窓があるから電気を消しても暗くはならないけど、もっと暗くしたら、大熊さんの肌が光って見えるだろうか。

それからクラスの男子たちは、放射能とか、セシウムが伝染ると言って、大熊さんをからかうようになった。ボクもとなりの席だから、たまにまとめてからかわれる。女子たちは態度を決めかねている。

3

放射能とか被曝者という言葉を聞いて、絶対に思い出したくなかったことを思い出した。図書室に「はだしのヒロシマ」という漫画があって、読むと死ぬとか、本に触れるだけでも呪われると言われていた。ボクは、そのうわさを聞く前に中身を見てしまったのだけど、はっきり言って呪いよりも怖かった。

被曝者は、もとは普通の人間なんだけど、放射能を浴びたことで、皮膚が溶けたり、目玉が飛び出たりして、ゾンビみたいになってた。いくら水を飲んでも、のどの渇きが収まらない。でも、水を飲むと、同じ量の血が肛門から吹き出るという。

いちばん怖かったのは、若い女の人が襲われるシーン。避難所にはトイレがないから、人目につかないように離れた場所でする。でも、それを待ち構えている怖いおじさんがいて、女の人は襲われてしまう。怖いおじさんは女の人を押し倒し、服を脱がして、詳しいことはわからないけど女の人におそろしいことをする。トイレに行かないわけにはいかないから、女の人は何度も同じ目に合わされる。

大熊さんも、いまはなんともないけど、そのうち皮膚が溶けたり、お尻から血を吹いたりするんだろうか。となりにいるボクは、どうなんだろう。

4

変な夢を見た。「はだしのヒロシマ」で見たのと同じ場面で、ボクが大熊さんを襲ってた。大熊さんを押し倒し、服を脱がし、ボクもズボンを下ろして、アレをアレに押し付けた。

ペニスが何かを吐き出すような感触があって目が覚めた。部屋はまっくら。パンツが濡れていた。

5

次の日は、大熊さんを見るたびに、すごくドキドキした。大熊さんと目が合うと、ボクは真っ赤になった。でも、そんな日に、ボクは大熊さんの家に遊びにいくことになった。

静かな部屋。大熊さんはジュースを出してくれた。それから、ボクに頼みたいことがあるという。大熊さんは「UFOの不思議」という本を持っていて、そこに書いてあるおまじないをすることになった。

二人で手を重ねて、テレパシーで「円盤さん」に呼びかける。思いが届けば、円盤さんが願いを叶えてくれる。

おまじないが終わっても、ボクは大熊さんの手を離したくなかった。ボクは大熊さんの手首をつかんで、大熊さんを組み伏せた。

6

東京の学校は、EMだんごで川を浄化する行事があった。ママはEM水を分けてもらって、これを飲めば放射能を無害化できると喜んでいた。パパの反応は複雑だった。もし本当に放射能を無害化できるなら、東京に引っ越してきた意味がなくなるかもしれないから。

楢葉はかしこいから、科学的な根拠がないと笑うかもしれない。わたしはそこまで割り切れなくて、おまじないに頼ったりする。

ママは、川内楢葉なんて友達はいない、クラスの子は全員助かったと言った。楢葉が死んだとき、お通夜もお葬式もなかったから、そうなのかもしれない。ママは楢葉のことをくわしく聞きたがった。ママは楢葉をマリア様かもしれないと思ったから。楢葉がマリア様でないとわかったら、ママは、楢葉は悪魔の子供だから、つぎに会ったときはロザリオの祈りを唱えなさい、と言った。

わたしはおまじないの続きをすることにした。楢葉が好きそうな、素敵な場所を見つけたから。

7

待ち合わせの場所は、お寺みたいな塔とお堂がある、不思議な公園だった。大熊さんは大きな麦わら帽子をかぶって、白いワンピースを着ていた。

二人の手を重ねて、目を閉じた。大熊さんの願いは、楢葉さんに会えますように、だった。

大熊さんが楢葉さんと最後に会った日のことを考えた。ボクが見たあの日は、九段会館で天井がくずれて、人が下敷きになったニュースから始まった。それから、津波警報と注意報のために、百を超える市町村の名前が読み上げられた。あのどれかひとつに、大熊さんと楢葉さんの町がある。

8

一陣の風が吹いて、砂ぼこりが舞った。大熊さんの麦わら帽子が飛んで、公園のお堂の前に落ちた。

麦わら帽子のなかには、生まれたばかりの赤ちゃんがいた。

大熊さんは、その子を抱き上げて「楢葉」と呼んだ。それから、ワンピースの肩をはだけて、楢葉に乳を含ませた。