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スタートアップに転職する時に最低限知っておくべき株の話
Entrepreneurship

身の回りで大企業からスタートアップに転職するエンジニアの話をよく耳にするようになりましたが、転職に際して株に関して深く考えていない人がかなり多いことに気づきました。最低限この程度は知っておいたほうがいい、という点を自分の視点からまとめてみました。

スタートアップの金銭的な成功

スタートアップの株は「非公開株」です。非公開株というのは、東証などの証券取引所で取引されていない株全般のことを指します。おおっぴらに取引されていないので、非公開株を貰ったところで即座に現金化出来るわけではありません。特に外部から投資を受けるようなスタートアップ企業は、(例外はいくつかあるものの)この非公開株を現金化させることが一つのゴールになります。

非公開株を現金化させる方法は大きく2つあります。一つは株式公開(IPO)で、証券取引所の審査を経て自社株を自由に売買出来るようにすることです。いわゆるマザーズ上場、東証二部上場などと呼ばれるのがIPOです。それぞれの証券取引所によって基準があり、その基準をクリアし審査にパスすることで株を売買することが出来ます。その際の時価総額は、LINEなど1兆円規模の上場もあれば30億円程度の上場もありますが、基本的には50億円以上、大体中央値が200億くらいかなという印象です。IPOまでたどり着けるスタートアップは、ほん〜の僅かです。

もう一つは企業買収、いわゆるM&Aです。大企業がスタートアップを買収する時、スタートアップの株の大部分(基本的には100%)を買い取ることで買収を成立させます。大企業がスタートアップの非公開株を一株あたりいくらで買い取るわけですが、それがそのまま現金化になります(実際は現金ではなく、親会社の株との株式交換でM&Aが成立することもよくあります)。M&Aの場合の時価総額も色々で、Instagramは1000億近い時価総額がつきましたし、小さな所では1000万円規模もあります。数億円〜50億円くらいの規模がよく見られる印象です。M&Aまでたどり着けるスタートアップは、IPOよりは多いとはいえ、やはり僅かです。

これらの2つを、スタートアップのexitと呼びます。基本的にスタートアップは、将来どこかでexitを目指しているものだと考えて問題無いでしょう。exitまでたどり着けるスタートアップの割合は 5% もないでしょう。 1% もないかもしれません。

株の移り変わりのパターン

さて、スタートアップの株がどのように生まれ、どのようにexitされるのか、理想的なストーリーを作ってみました。

創業時

スタートアップは複数人で始めるのが理想とされています。ここは3人で始めたパターンを想定しましょう。CEOの創業者A氏、CTOの創業者B氏、COOの創業者C氏がそれぞれ250万円、150万円、100万円を持ち寄り、時価総額500万円の会社を設立しました。それぞれの株の持ち分は50%、30%、20%となります。最初の資金調達を目指して、自分たちのアイデアのモックアップやプルーフオブコンセプト(PoC)の制作にとりかかります。

このタイミングのメンバーは、給料もろくにもらえない状態でしょう。ものすごく大きいリスクを抱えていますので、それ相応の株を手にする必要があります。

シードラウンド

事業の説得力がある程度出来てきたら、それを元にベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル(個人投資家)をまわり、最初の資金調達(ファンドレイジング)を目指します。事業の種(シード)に投資するという意味で「シードラウンド」と呼ばれます。投資家との打ち合わせの結果、投資前の会社の価値(プリ・バリュエーション)を2億5000万円と見積もり、計5000万円の投資を受けることに成功しました。

最初創業時に500万円だった会社が2億5000万円と見積もられたので、会社の価値は一気に50倍になっています。アイデアやモックアップの作成によって会社の価値がそれだけあがった訳です。しかしあくまでもそれはただの見積であり、創業者たちがこの金額で株を換金出来るわけではありません。

また、外部から投資を受けたため、創業者の株の持ち分は少し減ります。2億5000万円の会社に5000万円の投資を受けた結果、創業者の株の保有率は100%から83.33%(2億5000万円/3億円)に減少しています。一方シードラウンドの投資家の持ち分は16.67%(5000万円/3億円)になります。最終的な時価総額(ポスト・バリュエーション)は3億円になります。

このように既存株主の株の持ち分が減ることを「希薄化」といいます。投資を受ける以上希薄化は避けられないのですが、最終的に株の持ち分の割合が重要になるので、既存株主は希薄化に十分に気を配る必要があります。

シリーズA

創業者たちはシードラウンドの5000万円の投資によって事業を立ち上げることが出来、なかなか良い結果が出たので、ここで大量に資金を投入してビジネスを一気に加速させようとします。そのために「シリーズA」と呼ばれる投資ラウンド(投資段階の呼称)を始めます。結果、いくつかのベンチャーキャピタルを説得し、投資前の会社の時価総額(プリ・バリュエーション)を12億円とした上で、計3億円の投資を受けることが出来ました。この規模だとエンジェルはあまり出てこないのが普通です。

シードラウンドで3億円だった会社が12億円と評価されたので、時価総額はさらに4倍に跳ね上がりました。一方で希薄化も進んでおり、創業者の株は83.33%(前回の保有率)×(12億円/15億円)=66.67%に、シードラウンドの投資家は16.67%(前回の保有率)×(12億円/15億円)=13.33%にそれぞれ希薄化します。シリーズAで投資した投資家の持ち分は20%(3億円/15億円)となります。最終的な時価総額(ポスト・バリュエーション)は15億円です。

元々は100%だった創業者の持ち分が66.67%まで減っています。3分の1をギリギリ確保出来るかどうか、というラインで、全ての投資家に手を組まれると特別決議(増資、合併など重要事項)の拒否権を発動される可能性も出てきます。

Exit

この後、シリーズB、シリーズCと進んでいくのがよくあるパターンなのですが、面倒なので彼らにはここらでExitしていただきましょうw。彼らのサービスが大企業に高く評価され、買収(M&A)の案件がまとまりました。交渉の結果、大企業は24億円で100%買収することになりました。架空の話ではありますが、創業者の皆さん、おめでとうございます!

さて、各人の取り分を計算してみましょう。24億円のうち創業者は66.67%、すなわち16億円を手にします。創業者A氏は8億円、B氏は4億8000万円、C氏は3億2000万円を手にします(税金20%等を無視)。元々の出資金額と比較すると320倍です。それだけのリスクを取って会社を大きくした真っ当な報酬だと言えるでしょう。

シードラウンドの投資家は3億2000万円を手にします。元々5000万円の投資だったのが6.4倍になっています。彼らも、まだ先が見えない会社に投資したリスクに見合った報酬を得ていると言えるでしょう。シリーズAの投資家は4億8000億円、元の投資金額3億円の1.6倍になります。ある程度成功が見えリスクが減った段階での投資なのでその分取り分は減っていますが、それでもかなり大きなリターンです。

(なお、ここ、ざっくり計算していますが、実際は契約内容によって結構大きく左右されます。上の例は起業家に最も有利なパターンの説明になります)

これが理想的なストーリーの一つですが、実際はこんなにきれいにいくことはまずありません。かなりの希薄化を受け入れざるを得なかったり、前回のラウンドよりも時価総額が減るけれどもそれでも生き残るために投資を受けざるを得なかったり(ダウンラウンドと呼ばれます)、そもそも投資が受けられなくて資金が尽きて会社が潰れたりすることも普通にあります。当たり前ですが、起業は簡単な話ではありません。

エンジニアの視点で株を見る

さて、途中で参加するエンジニアとしては、今会社の段階が上記のどこにあたるのか、ということを意識しなければいけません。創業期であればとてつもないリスクがありますので、何としても株を貰うべきでしょう。上のストーリーで創業期に仮に5%、500万円のうちの25万円分の株を受け取っていても、最終的に8000万円になります。

シードラウンド終了後に参加したエンジニアであれば、上のストーリーだと、この段階で1%(当時の時価総額でいう300万円分)を貰うと最終的に1920万円になります。シリーズA時に参加したエンジニアが0.1%(当時の時価総額でいう150万円)をもらうと、最終的に240万円になります。後の段階になればなるほど、入社時に株を貰う価値は下がっていくともいえます。

しかし上のストーリーではシリーズA後にすぐexitをしていますが、成長の余地があればあるほど株の価値は跳ね上がります。自分が転職しようとしているスタートアップの今後の成長に自信があるのであれば、是非とも株を貰う交渉をすべきでしょう。特にアーリーステージ(創業期、シードラウンド、一般的にはシリーズAも)の会社に参加するのであれば、もし株を貰わないと会社が成功すればするほどモチベーションが下がることになりかねません。

転職する際には、今の会社のステージと現在の資本政策(株が誰にどの程度もたれていて、時価総額がどの程度か)ということをなるべくしっかり聞いて、自分が貰う株が将来どの程度の価値になるのかを推定し、その上で妥当な株数を要求するのが良いと思います。

余談など

ここに書いたのはあくまでざっくりとした知識なので、本気で調べる方は是非本などで勉強されてください。「起業のファイナンス」、「起業のエクイティ・ファイナンス」が有名ですね。後者は読みましたが大変よかったです。アフィリエイト貼っていませんのでお気軽にクリックしてください。

ストックオプション(SO)になると話は少し複雑になりますが、原理は同じです。ストックオプションは「条件が揃えば金を出して株を買える権利」みたいなもので、とりあえずは格安生株引換券みたいなものだと考えてください。

実際の所、Cクラス(CTO、COO、CFOなどのCxOのこと)の人でも株に関して無頓着な人が多いのが現実です。前に東京人生ゲームという一時期話題になっていたネタ記事で、COOともあろう立場の主人公が「ストックオプションについてタケシ(CEO)から聞いた事がなかったので、ちゃんと確認しておかないと」という発言をしていて、さすがにこれはあり得ないだろうと同僚たちと笑っていましたが、もしかしたら実情を反映しているのかもしれません(当然のごとく、次話でこの主人公がストックオプションを貰っていないことが明らかになりました)。実際の所、スタートアップのCEOでも自社の株についてほとんどわかっていないんじゃないか…と思われる方もたまにいらっしゃいます。以前は自分もそうでした。

特に日本人は、給料や将来のキャピタルゲイン(ここではexit時の報酬)に関係なく、会社できちんと働く習性があるので、株とかの生々しい話をつい避けてしまう傾向があるのではないかと思います。一方で、会社の成長が自分の成功に繋がるのは健全な労働の形だと思います。せっかくリスクを取ってスタートアップに転職される以上、皆さんがよりやりがいのある環境を手に入れられることを期待しています。

※この記事に寄せられたコメントに返し、コメント返しの記事を書きました。