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海外Algo Trading就活

TLDR

  • 東大理系の数学的地頭が上位1/4くらいの人が2~3年スパンでしっかりと戦略的に対策をすると、英語が何とかなれば新卒年収3000万〜5000万の企業にまあまあの確率で入れると思う(米国なら5000万〜1億)

はじめに

筆者は2022年11月からロンドンのアルゴリズム取引の会社に機械学習エンジニアとして就職する者です。就職先は、水色のGから始まる会社で、ちょっと前にKaggleのコンペを開いてたり、機械学習系のカンファレンスのスポンサーをしていたりしたところです。海外のアルゴリズム取引業界の就職に関しては日本語の情報が殆ど無いので、実際に体験してみてわかったこの業界の就活というゲームのルールをまとめてみたいと思います。ただ書いてる本人は、前年のサマーインターン経由で就職先から内定を貰ったものの、その後に新卒採用で応募した他社にはことごとく落とされています。まあ新卒採用の後半くらいになってゲームのルールを理解してきたような感じなのでしょうがないかなという感じです。それでも5~10社くらい面接に進んで2~3社の最終面接まで行ったので、書いている内容が酷く間違っているという事はないだろうと思います。(間違ってそうな点があればTwitter(@kstoneriv)か何かでご指摘ください。)

アルゴリズム取引業界

ビジネスモデル

アルゴリズム取引の会社は、株などの金融商品の将来価格を予測してそれを市場で取引してます。伝統的なヘッジファンドなどは予測/取引を人間が行うわけですが、代わりにアルゴリズムで自動的に取引することで人間よりも多くの商品をより短い時間スケールで取引ができるということが、アルゴリズム取引の会社の強みになります。この人間とは違った方向性での予測力を活かして収益を上げるというのが典型的なアルゴリズム取引のビジネスモデルです。

社員の属性

こういったアルゴリズムの開発/運用をするために、これらの会社では俗に言うクオンツやソフトウェアエンジニアなどが多く雇われています。クオンツはPhD持ちがかなり多く、相当にアカデミックなバックグラウンドの持ち主が多いです。ソフトウェアエンジニアのバックグラウンドについてはおそらくBig Techと大して変わらないような気がしますが、おそらく数理系のバックグラウンドの人が多め若干多めだと思います。社員の技術力が直接的に収益に結びつくので、会社としても技術力の向上を相当に重視していたりしますが、あくまでも稼ぐことが第一義である業界なので、例えばPreferred Networksとか大企業の研究所のような技術が強いことを一番のアイデンティティーにした集団とはちょっと違うかもしれません。

労働環境

たぶんそこそこホワイトな職場が多いと思います。たとえ業界内で最もハードな会社だとしても、寝不足で頭が回らないような状態になったらどうしようもないので、睡眠時間が十分に確保できる程度には余裕はあるはずです。自分の勤務先は英系でかつホワイトな労働環境を売りにしているところで、18時過ぎにはオフィスは大体空になっていて有給休暇が年35日あるという感じです。

立地

また、こういった企業は基本的はは金融都市に集中していて大半のオフィスはニューヨーク、シカゴ、ロンドン、香港、シンガポール、アムステルダムにあります。ちょっと昔までは東京にもオフィスが結構あったみたいですが、最近だと少なくなってきているようです。(東京だとCitadel, Two Sigma, Point72あたりのオフィスがあるみたいですが、アルゴリズム取引系はの採用は活発でないと思います。)New Grad 2022 Quant Jobs chart 🐱‍💻という業界で新卒採用をしている会社の一覧を見てみると分かるのですが、大体本社はニューヨークかシカゴという感じです。ちなみに、ニューヨークやシカゴは頭一つ抜けて給与の天井が高く、他の都市の1.5~2倍くらい出ているような印象です。(おそらく米ドルが強く、多分業界トップの本社が多いためです。)一旦どこかのオフィスで採用されれば米国に転籍するのは割と容易なようです。

典型的な職位

Tech系の企業にソフトウェアエンジニア(SWE)、プロダクトマネージャ、データサイエンティストのような標準化された職位があるように、アルゴリズム取引業界にも標準化された職位があり、具体的には以下の3つに大別出来ます。

1. Quant Researcher

日本で言うところの、いわゆるクオンツというやつです。だいたい数理モデリング/プログラミングにかなり強く、金融商品の価格の予測と計算、ポートフォリオの最適な構成、そのリスク管理、取引執行の最適化などの様々な局面で使われるアルゴリズムの開発を担当します。数理モデリングとプログラミングのうち特に前者に強い人が多く、実際の取引に使われるコードを実装するのはSWEだったりすることも多いようです。予測を担当するQuant Researcherのスキルセットは、Big Techのデータサイエンティストと結構かぶるのではないかと思います。Quant Researcherは下記のQuant TraderとともにExploratory data analysisが業務に占める割合がある程度あり、Python(pandas, numpy, scikit-learnあたり)をある程度使うようです。

2. Quant Trader

Quant Traderはアルゴリズムの執行、管理を現場でしつつ、Quant Researcherと協力してアルゴリズムの改善を行うというのが大まかな職務になります。どうやら、自動取引アルゴリズムの多くは全自動で最適なパフォーマンスが得られるようなものではなく、人間が市場の相場にあわせてて適宜のチューニングをしたり、必要に応じて手動で取引をするひつようがあるようで、それを行うのがQuant Traderの仕事のようです。あとは、Quant Researcherよりも市場での取引データを見ている時間が長いので、ボトムアップなアルゴリズムの改善にはQuant Traderが大きく貢献する余地があるようです。

3. SWE

基本的には、Big TechのSWEと同じような職務ですが、数理モデルの実装部分、分散システム、データ基盤、FPGAあたりの募集がが多い気がします。数理モデルを実装するSWEはQuant Developerなどとも呼ばれることが多く、僕の仕事もこの亜種と言えます。他の種類のSWEについてはあまり詳しくないので割愛します。SWE職におけるのBig Techとの一番の違いはソフトウェアのユーザーが社内にいるのでフィードバックがもらいやすいことや、SWEが利益を直接生み出すフロントオフィスでなくミドルオフィスくらいの立ち位置になることだといわれています。

給与

Tech系企業の給与が分かるLevels.fyiというサイトを使うと、上記の新卒採用リストに載っている会社のSWEの給与が分かります。(このサイトは、米国のSWEの給与水準を日本のそれと比較して愕然とすることができる事に定評があるやつです。)たとえば、Jane Streetという業界トップの一角の新卒の給与を見てみると、ニューヨークの新卒1年目は年収300K-450K USD位になります。2022年10月時点での円安ドル高レートで換算すると、450K USDは6700万円位です。これは頭がおかしくそうです。(ちなみにJane StreetはOCamlを使っていることと比較的学歴フィルタリングが弱いことで有名な会社なので、OCaml好きなSWEの方はシンガポールか香港オフィスあたりに応募してみると良いかもしれません。)Quant TraderやQuant ResearcherはSWEよりも収益への貢献度が可視化されやすいので給与のブレが大きく、ニューヨークでこれらのトップ企業に入れば新卒1億なども普通にあり得る話でしょう。あと、これらの業界トップでインターンをするとBig Techの1.5~2倍くらい出ると思います。自分も当然1億円ほしかったのですが、残念なことに自分の就職先は数倍のオーダーで業界トップから離されていて、給与で見ると日本で外資系企業に入るのと同じ位でした。(ロンドンの物価を考慮するとむしろ少ないという説もありますが…。)

就活におけるゲームのルール

ここからは、上記の3つの職種、特にQuant ResearcherとQuant Trader向け選考プロセスとその攻略法について書きたいと思います。個人的には5~10社程度のQuant Trader、Quant Researcher職の面接を受け、SWEの面接は1社だけしか受けていないので、SWEについてはそこまでよく知りません。ただ、ネットでみた情報をもとに外挿すると、SWE系の就活は基本的にBig Techと同じで、加えて下記のQuant Trader、Quant Researcherの面接で聞かれる質問のうち比較的簡単なものが聞かれるといった様子のようです。特に数理モデリングに近いSWE職ではそういった質問がよく聞かれると思います。Quant ResearcherやQuant Traderの面接ですが、これらも形式的にはかなりBig TechのSWE面接に似ていて、面接官と上手くコミュニケーションを取りつつパターン化された問題を解くというものが多いです。どんなパターンの問題が出るのがという点については後述しますが、その半数以上はコーディング面接と同じく対策可能なタイプの問題になります。

Resume Screening

まず最初の関門がResume Screeningです。会社のHPまたはエージェントなどを通して応募すると、レジュメをもとに面接に呼ぶ応募者が選ばれます。この段階で面接に呼ばれるには、Quant Trader、Quant Researcherともに以下の条件をある程度満たしていることが要求されます。

  • 理数系、特に数学、物理、計算機科学、数理ファイナンス、統計などを専攻
  • 地域でトップの大学に在籍
  • 高いGPA(体感としては名門大学なら上位20%、それ以外は5~10%)
  • 良いインターン経験(そこそこ良い会社での、SWE、データサイエンティスト、金融アナリスト、トレーダーなどの経験)
  • その他、高い数理モデリング/プログラミング能力を示すもの(数学/情報オリンピック、プログラミングコンテスト、Kaggle、論文執筆など)
  • 英語力(技術的なコミュニケーションが出来ればOK)

ちなみに、ファイナンスの知識は、基本的に不問です。ただし学習意欲を示すという点では、10~20時間位は勉強しておいて、CAPMとかBlack-Scholesとか聞いたことがあるくらいになっておくとと良いように思います。(数理系に強い人は、ここらへんの話は金融に行かないとしても知っておいて損はないと思います。)究極的な話、その人が雇うことで直接/間接的に収益に貢献しそうかどうかを面接に呼ぶことで確度高く判断できるなら誰でもOKなわけですが、概ね上記のような条件に収束するように思います。自分の場合は、ETH Zurichというスイスの世界ランク10位前後の大学で統計学修士をやっていて上位1~2割位のGPAで、有名な機械学習周りのOSSであるOptunaの開発インターンをした経験があり、同じくOSSであるScikit-learnのちょっとしたデバッグをしたことがあるという状況でインターン応募時のレジュメが通りました。英語力については、基本的には専門分野の議論できればOKなはずで、あとは数理/情報系の能力との兼ね合いで足切りラインが変わるはずです。おそらく、東大や京大の上記の条件を大体満たす人は香港やシンガポールオフィスのインターンや新卒採用に応募すればいくつかのところではレジュメは通るんじゃないかと勝手に思っています。もしそういった方で自分の就職先を受けてみたいという人がいれば(インターン/転職)、レファラルしてレジュメの通過率を多少上げられると思うので、Twitterか何かで連絡してください。

加えて、Quant Researcherの場合には学歴の要求水準が上がり、理数系のPhDを要求する会社もいくつかあります。ただPhDを持っていなくても、数学オリンピックや情報オリンピックのメダリスト、GPAが異常に高い人などはほぼ確実にレジュメスクリーニングを通過できます。ちなみに自分がいまの就職先でインターンした後に応募したQuant Researcher職のレジュメの通過率は50~60%くらいでした。理数系PhDというのはある程度の加点要素にはなるはずですが、必須というわけではないと個人的には思っています。こちらの海外クオンツ就活についての記事(内定者が考えるクオンツ・ヘッジファンドの就職対策)ではPhD必須と述べられていますが、これよりは若干、要求水準が低いのかなという感じです。

もっと、詳しくResume Screeningについて知りたい方は、上記のNew Grad 2022 Quant Jobs chart 🐱‍💻などのリストにある会社の社員の経歴をLinkedInで調べてみると良いと思います。どのくらいの学歴/インターン歴/その他レジュメ上のスペックで、どの会社でインターン/就職できたかという事が大体分かります。

Technical Screening

Resume Screeningを突破すると2~4回の電話かビデオので技術面接があります。このラウンドでは概ねシニア以外のQuant Researcher、Quant Trader、SWEを相手に、かなりパターン化された技術面接をします。個人的にはネイティブスピーガーを相手に英語で電話面接をするのはややきついものがあり、問題設定を正しく理解するのに苦労する事も多かったです。一方Video面接では、こちらの理解度が表情などから伝わるので面接官もこちらに合わせてくれることが多く、多少難易度が下がる気がします。

Onsite(≒最終面接)

Technical Screeningを突破すると、ついに最後の関門であるOnsite面接を受けることになります。Onsiteといっても会社によってはVirtual onsiteなどと言ってビデオ面接だったりすることもあります。このOnsite面接まではそこまで沢山進めていないので、あまりパターンを見いだせていないのですが、Technical Screening程は標準化されておらず、もう少し深みや特徴があるような問題も出題されるように思います。例えば、Jupyter notebook上でexploratory data analysisを行い簡単な予測モデル構築をするというような面接や、何らかのゲームの対戦相手の対戦履歴が与えられてそれをもとに相手に勝つ確率を最大化する戦略を考えるという面接、過去のの研究/インターン内容について発表/議論するというというような形式の面接もありました。また、Quant Trader向けのOnsite面接では、そこそこ速いペースで賭けを行いQuick and Dirtyな期待値計算の速さや正確性を問う、というような面接もあります。リクルータの話によると受験者の強みに合わせて面接内容を変えるという会社も多いらしいので、自分と違ってProgrammingが得意な人とかだと難し目のコーディング面接があるのだと思います。

ちなみに、これらResume Screening、Technical Screening、Onsiteのそれぞれ段階で概ね応募者は1/5 ~ 1/7に絞られると言われているようです。ただ、25~49回面接に呼ばれれば平均一回通るのかと言われると、面接のパフォーマンスは独立でなく従属な事象なので、当然そういうものでも無いです。

Quant Trader/Researcherの傾向と対策

さて、Technical ScreeningとOnsiteの半分以上を占めるパターン化された問題というのについて説明したいと思います。まず6割位の頻度で大学初等レベルの算数の問題が出題されます。たとえば以下のようなものがあり5〜10分くらいで回答することになります。

まあ、これらはぶっちゃけ、典型的な院試問題とか大学の入試問題と大差ないようにおもいます。もうちょっと難しいものだと、

あたりでしょうか。これらは、20分強かかってもOKだと思います。まあ基本的には、大学初年次程度の算数や学部上級レベルの確率統計に不自由していなければ、ある程度対策をすれば解けるようなたぐいの問題です。たとえば、コインの問題は初見で解くのは結構難しいと思いますが、これは単に頻出問題のパターンの一つなのでどちらかと言うと知識問題に近い位置づけだったりします。自分は2割位の面接でこの問題かその亜種を聞かれました。あと、もしも数理ファイナンスや確率論を専門にしていれば、もうちょっと高級な数学を使った問題も聞かれるのだと思いますが、自分はそういう質問はされませんでした。少なくとも、確率解析はできると加点要素になるというくらいで、できなくても大きく減点されることは無いものと思います。まあただ、確率微分方程式とかEuler-Maruyama法とかに対しての雑な理解くらいはあると良さそうな気はしますが。これらの問題は学部レベルの算数で解けるように出来ていますが、確率周りの小難しい問題は、離散時間のMarkov Process、Markov Decision Process(最近流行りの強化学習の基礎ですね)やExtensive-Form GameのBacktracking(動的計画とも言われる)による解法あたりをおさえておくと見通しが良くなるように思います。

算数ないし数学まわりについて、参考になる資料を紹介しておきます。まず手軽な資料としては以下のようなものがあり、これらを見ると大体どのような問題が聞かれるかは分かると思います。

また、この記事(5 Top Books for Acing a Quantitative Analyst Interview)にあるように、しっかりとした対策本も世の中に存在していて、その一部はネット上に転がっています。新卒採用でいろいろな会社の面接を受けてみた感触ですが、自分レベルの数学力/地頭でトップでの企業に入るには、これらの対策本のどれかを1, 2周する位の対策する必要がありそうでした。じゃあお前の数学力/地頭はどの程度なんだという話になると思うのですが、自分の数学的な地頭はすごく良いというわけではないと思います。自分は抽象度の高くない確率統計にはそこそこ強いですがその他の数学は苦手で、事実、院試ときに東大の工学系/情報理工学系受けて両方とも数学ができなくて落ちています。少なくとも東大理系の数理的能力が上位1/4くらいの人間なら、ある程度真面目に数理モデリングをやったら、間違いなく自分よりも強くなるでしょう。例えば東大の数理情報とか京大の数理工学あたりで問題なくやっていける人は、ある程度準備すれば純粋な数理能力が原因で落ちる事はないと思います。

算数ないし数学の問題の他には、Big Techのようなコーディング面接が2割くらいあります。これは完全にLeetcodeしておけばいいタイプの問題です。自分よりもプログラミングが強い人はもっとこの比重が高くなるだろうと思います。自分は、とある会社のTechnical Screeningで最適解がO(n)なことで有名な累積和の問題(https://leetcode.com/problems/maximum-subarray/ )をO(n^2)までしか解けなかったのですがそれでも通過したので、Quant ResearcherやQuant Trader職ではSWE職よりか要求水準が低いのだろう思います。あとは、就職先のインターンに応募した時に、一度だけSystem Designの問題を聞かれ、ものすごく酷い出来だったという事があるのですが、それでも通ったのでSystem Designはそこまでいらないのでしょう。

残りの2割は、過去の研究/インターンについての技術的な話を面接官とするというタイプのものです。これは過去の経験値を評価する側面もあるのですが、それと同じ位の比重で同僚と効率よく技術的なコミュニケーションを取る能力を見ているのだと思います。どこの面接でも大体同じような経験を話すので、場数をこなすに連れて、相手が興味を持ちそうな点や自分の大体の持ち時間などが分かるようになり、話すのが上手くなると思います。オンライン面接だとメモを読みながら面接を受けることができるので、自分は過去の経験をまとめたメモを作って面接時に開いていました。

あと当然ですが、会社ごとに聞く問題の傾向があるので、面接前に「社名+ポジション名+Interview Question」でGoogle検索して出そうな問題の復習をしておくのはそこそこ有効です。

最後に、Quant ResearcherとQuant Traderの面接内容の差について言及しておきます。Quant Researcherについては、複雑な問題を深堀して解決する能力などがより見られます。一方、Quant Traderについては正確性やスピード感、そういった面での多少のストレス耐性などがより評価されます。Quant Traderの面接では問題の難易度がやや低くなる代わりに、よりスピード感や正確性の要求が高くなるという印象です。一つの問題をじっくりと考えて解くのが好きな人はQuant Researcher向き、沢山の問題をスピード感を持ってザクザクと解くのが好きな人はTrader向きという感じでしょうか。

その他の就活のコツ

その他の面接のコツとしては、その面接で何の能力が評価されているのかを意識し、可能なら探りを入れるというものがあります。アルゴリズム取引系の採用プロセスはBig Techの面接のように構造化されていて、求められているスキルがちょっと違うという程度の話なので、面接ごとに何が見られているかを適切に理解して振る舞うことである程度の評価ハックが可能です。(Big Techの技術面接については以下の記事が非常に詳しく解説をしています:Twitterで医師を拾ってきて…Twitterで医師が拾われて…)Quant TraderやQuant Researcher職では、確率統計まわりの算数の能力に加えて、1)CS/Mathの常識に基づいて、2)Systematicな再現性あるアプローチで、3)同僚と協力しながら、問題解決できること求められていて(※Juniorのポジションの場合)、各面接ではこれを更に細分化したスキルのうちいくつかを見ているわけです。何が求められているのかがわかれば、問題の解の事前分布を適切に設定できるので、求められている解のクラスがだいぶ狭まり、効率的に答えをみつけられるようにもなります。例えば、自分はQuant Traderの面接中に、深い思考力を評価するためのどちらかと言うとQuant Researcher向けの問題を出題されたのですが、スピード感を求められているのだと勘違いしてQuick and Dirtyなアプローチをしてしまい落とされたというような事も有りました。上記の対策をやって、どのようなタイプの問題がどのようなスキルを見るための出題されているかという土地勘がつかめるようになると、面接の突破率がだいぶ上がるのではないかと思います。

もう一つ就活のコツとしては、出来るだけ時間を確保してインターン履歴ののブートストラップしていくこと、インターン経由の採用を目指すことというのがあります。自分が新卒採用で最終面接まで行ったとあるトップ企業の社員の履歴をLinkedInで眺めてみると、ほぼ全員インターン経由での採用だったということがありました。企業は一度ローパフォーマーをを雇用すると解雇するのが大変なので、採用活動時にはリスク回避的になるわけですが、インターン経由での採用だとローパフォーマーでないかどうかの確認が確実にできるため、比較的採用の間口が広がるわけです。ちなみに、これは完全に負け犬の遠吠えになるのですが、自分は20〜30時間くらいの対策で、最終面接まではたどりつけたので、もしも仮にしっかりと対策をして、かつ戦略的にインターン採用の方に応募していれば、割と高い確率で入れたんじゃないかとおもっています。あと、こういう会社でインターンをするにはそれなりのインターン経験や実績が必要なので早いうちから戦略的に準備するのが当然大事です。こういった会社の殆どは2〜3ヶ月程度のサマーインターンを実施していて、その選考は前年のサマーインターン直後の時期だったりするので、インターンの2年前の時点で応募のための実績づくりを始める必要があるということです。あと会社によりますが、別に最終学年でなくても(理論上は)学部一年からインターンをとる会社がほとんどで、卒業後にインターンをしてその直後から新卒として働き始めるというような事も割とよくある話だと思います。卒業時期は良く聞かれますが、会社は大学ごとの卒業時期なんて知らないですしそんなもの個人ごとに違うので、自分にとって都合の良い卒業時期を、適当に申告しておけばOKだと思います。まあ要するに、時間をかけて戦略的にインターンを攻略するよいという話ですね。

最後に

・日本には数学/数理モデリングが相当に得意で多少はプログラミングができる学生はそこそこいると思うので、もし最低限の英語ができて、こういう世界が面白そうだと思うなら是非挑戦してみてほしいです。

・海外にはこういったぶっ飛んだ世界が広がっていたりするので、数学やプログラミングに限らず得意分野がある人は英語を何とかしつつ突き抜けてみてみると、きっとすごく面白い体験ができるんじゃないかと思います。

・界隈の先輩方、間違ってそうな所があったら修正いたしますので、Twitter等でご指摘いただけますとありがたいです。あと何か機会があれば、いろいろ教えてください。

補足

以下、記事の本筋とは、あまり関係ない話をします。

アルゴリズム取引は社会悪か?

数理モデリングもプログラミングできるし英語も問題ないけど、アルゴリズム取引にあまり良いイメージがないという人向けにちょっと補足します。この手の話に興味がなければ飛ばしてください。たぶん読んでも時間の無駄です。

世間の一部の見方として、アルゴリズム取引業界というのは、一般人が株取引をするときに手数料をかすめ取る賤しい業界だというものがあるように思います。少なくとも自分はインターンをするまで個人的にはそんなことをなんとなく思っていました。しかし、いろいろと調べてみると、こういう業界もあった方が有益なのではないかと思うようになってきたので、そこについてちょっと書こうと思います。

世の中の企業は世の中に何らかの価値を提供してその対価をもらい収益を上げます。たとえば、Googleは検索結果、Appleは優れたUIを持った計算機、Microsoftはビジネスツールを提供しているわけです。それではアルゴリズム取引は世の中にどんな価値を提供しているかというと、株とか債権とかの金融商品の将来価格の予測値を提供しています。この予測値というのは経済活動についての天気予報のようなもので、より正確な予測が出来ればそれだけ効率よく経済が回せるので、それなりに価値があるわけです。

ではアルゴリズム取引の会社はどうやってこの予測値を社会に提供して対価を得ているかと言う話になるわけですが、予測値から計算できる適正価格(だと思われるもの)から、市場価格が乖離した際にその分を売買するという形で予測を提供し収益を上げるわけです。もし予測が正しければ売買することにより市場価格は適正な方向に多少修正され、同時に会社は利益を得られるわけです。もしも誤った予測をすれば、市場価格は間違った方向に多少誘導されますが、それ以上に取引相手が得をし自社が勝手に損をするだけなので、世の中的には大して問題は無いでしょう。

では何故アルゴリズム取引の会社が嫌われがちなのかという点ですが、個人的にはアルゴリズム取引の企業がその活動によって金持ちをより金持ちにするのに直接貢献するためだと思っています。アルゴリズム取引の企業を作るのにはある程度大きな額の投資資金が必要なため、それらの殆どは金持ちの私有企業になっていて、一番得をしているのは高給取りの社員ではなくオーナーだったりするわけです。まあ、こればかりは資本主義なのでどうしようもないと思うのですが、アルゴリズム取引の企業が嫌われるのも分かる気はします。

あと就職/転職先を選ぶ時に気になる点として、自分がどれだけのインパクトを世の中に与えているかという点があると思います。勝手な憶測ですが、研究者とかGoogleのエンジニアは働くことで世の中に100の正のインパクトを出してそのうち1~5くらいを給与として貰ってるとすると、アルゴリズム取引業界で働く人はとかだと10~30位貰ってそうな気がします。まあ、GoogleのエンジニアといってもYouTubeをいじって出来るだけ中毒性が高くなるようにするお仕事をしているとすれば、世の中にマイナスのインパクトを与えてそうですし究極的には個別の仕事内容よるとしか言えないですが。

ちなみに自分がこの業界で働くことになった理由は、Big Techに行ける程にはプログラミングが得意でなかったが数理モデリングは多少得意だったためです。あとは自分は将来アメリカに行って得意分野で一発当てたいと思っているので、得意分野のスキルを伸ばせて、挑戦のための種銭が稼げ、USのビザや永住権のスポンサーをしてくれそうな企業が多いというの点も理由でしょうか。

アルゴリズム戦略の種類

(以下、2024年2月に追記)

自分が就活をしている間はあまり意識しなかったのですが、アルゴリズム取引と一言に言ってもいくつか種類があり、その会社が得意としているアルゴリズム取引の種類によって求められるスキルや面接で聞かれる内容にも差が出るので、それについて多少言及します。取引戦略を分類する際には、frequency(取引頻度)とasset class(取引している金融商品の種類)を考えるとよいです。

frequencyについては、明確な定義はないものの、金融商品の平均保有期間が1秒以下の取引戦略はhigh-frequencyで、数分〜数時間はmid-frequency、数日〜数週間はlow-frequencyというようにだいたい分類できます。High-frequency側では、システムのスピードが大事になるため、低レイヤや高速化などの計算機科学的な知識に対する需要が大きいように思います。また、Quant向けの面接では、Markov Process、Markov Decision Process、Zero-Sum Gameなどの話題がよく出るように思います。その一方、mid/low-frequency側では、Alternative data(リアルタイムの価格データ以外の情報源)を使って価格の予測をおこなうことが多く、そのため統計学的な知識やマーケットの理解などがより重視される気がします。また余談ですが、high-frequencyよりの戦略では、投入資産を一定以上増やすと投入額あたりのリターン額が逓減するため、ヘッジファンドはだいたいmid/low-frequencyよりの取引戦略を取っています。

次に、asset classの観点からアルゴリズム取引の分類をすると、Equity(株)、Foreign Exchange(為替)、Fixed Income Product(債券)、Commodity(資源・農作物などの商品)、Derivative(これらの派生商品)、Cryptcurrency(暗号通貨)などがあげられます。正直、asset classについてはそこまで詳しくないのですが、Fixed incomeやDerivative辺りを扱う会社の選考では、確率解析や微分方程式辺りの数学力を重視している印象があります。実際、有名なBlack-Scholes方程式を使ってオプションの理論価格が計算できたりするので、さもありなんというところです。また、日本の新卒採用で見かけるSell side(銀行とか)のクオンツも、この辺りの商品のpricingをする人は同じような要件(以下の記事の金融工学クオンツ: クオンツになりたい人のための本15選‐金融工学クオンツに、おれはなる!!‐)で採用されているのではないかと思います。一方、自分の働いている会社(Equity + mid/low-frequency)にいるようなEquityのクオンツはこういったクオンツに比べるとそこまで数学的に難しいことはしておらず、もっとデータサイエンスチックなことをしているので、asset classに求められているスキルセットが変わるのだろうなと思います。