Skip to content

Latest commit

 

History

History
579 lines (358 loc) · 47 KB

2_モデル契約書v1_0_技術検証(PoC)契約書(新素材編)_逐条解説あり.md

File metadata and controls

579 lines (358 loc) · 47 KB

モデル契約書ver1.0 技術検証(PoC)契約書(新素材)

想定シーン

  1. X社(樹脂に添加可能な放熱に関する新素材を開発した大学発スタートアップ)が、秘密保持契約を締結後、自動車部品メーカーY社に対し、当該素材の技術情報(当該素材に関する非公開の物性値、表面処理に関する情報)に関する資料を開示等するとともに説明を行った。
  2. Y社の開発担当者としては、当該素材を用いた製品開発を進めたい意向であったが、今期の予算が限られていること、来期の開発予算獲得のために社内の説明資料が必要であるとして、まずは技術検証(以下「PoC」という。)を行いたいと伝えてきた。
  3. X社とY社は、協議の結果、当該PoCを以下のとおり進めることを合意した。
    1. Y社は、X社に対し、ヘッドライトカバーの使用環境に関するデータを開示等する。
    2. X社は、外部の第三者を用いて、ヘッドライトカバーの材料であるポリカーボネート樹脂に当該素材を添加して成形することにより試験片(サンプル)を作成し、試験片の性能および耐久性に関する簡易検査(ヘッドライトカバーの使用環境を模した環境での性能および耐久性試験)を行い、当該検査結果を契約締結から3週間以内にレポートにまとめる。
    3. Y社は、X社に対し、上記作業の対価として●万円を支払う。
    4. Y社は、上記検査結果受領後、2ヶ月以内にX社との共同研究開発に移行するかを決定する。

目次

前文

X社(以下「甲」という。)とY社(以下「乙」という。)は、甲乙による開発対象となる製品またはサービスに対して、甲の開発した放熱特性を有する新規素材αの導入・適用することに関する検証(以下「本検証」という。)に関して、本契約を締結する。

<ポイント>

  • 技術検証(PoC)契約は、共同研究開発段階に移行するかの前提として、スタートアップ側の保有している技術の開発可能性などを検証するための契約となる。
  • 前文では、本モデル契約の対象が、スタートアップの研究・開発した技術をスタートアップおよび事業会社の開発対象となる製品またはサービスへ技術導入・適用することを明確にしている。

<解説>

  • 本モデル契約を締結するに当たっては、両当事者が以下に挙げる点を十分に理解することが重要である。

    1. 本モデル契約が将来的な共同研究開発契約の締結を目指したものであること
    2. 既に秘密保持契約を締結し、相互の情報を開示等し合った上での検証段階であること
    3. 検証においては、検証の目的を共有することが重要であり、未だ検証の目的が固まっていない場合は、まずその点を確定してから本モデル契約を締結すること

【コラム】技術検証(PoC)契約の意義

  • PoCは、スタートアップにとって、その技術や製品を他社に採用してもらう可能性を検討するための重要なステップである。
  • かつては、本開発への移行をちらつかされながら、次から次へと無償でPoCを依頼され、にもかかわらず本開発に移行せず、かつ、PoCにかかる一切のコスト回収ができずに資金が尽きてしまったりするケース(いわゆる「PoC貧乏」)が散見された。
  • また、PoCの過程で得られた知見について、相手方に対して譲渡を強要されたり、無断で出願されてしまったりなどの紛争になるケースもある。
  • これらのことを未然に防止するための契約がPoC契約であり、近年、オープンイノベーションの進展に伴い注目される契約の一形式である。

1条(目的)

第1条 本契約は、甲と乙が将来的に共同開発契約を締結することを視野に入れつつ、以下に定める対象技術を対象用途に対して技術導入・適用の可否を判断するため(以下、「本検証の遂行の目的」という。)に行われる技術検証における甲と乙の権利・義務関係を定める。

対象技術:甲の開発した放熱特性を有する新規素材α

対象用途:対象技術を自動車用ヘッドライトカバーに用いた新製品の開発(甲乙の共同開発行為以外には及ばない。)

<ポイント>

  • 本検証の目的を定める条項である。
  • 秘密情報等(データ、素材等)やスタートアップが提出するレポート(本報告書)はこの目的の範囲で利用が制限される(8条、9条)。
  • PoCにおいて情報の提供やレポートの提出をする側としては、想定外の利用を防ぐために、この目的を限定的に定める必要がある。

<解説>

  • 対象技術のみで本モデル契約の目的を特定した場合、他の用途への技術転用を制限できないことから、対象用途とともに限定する必要がある。
  • なお、対象用途の記載について、例えば、「放熱部材の開発」とだけ記載した場合、事業会社が受領した秘密情報を、自社が独自で行う「新規素材Xを用いた放熱部材の開発」に用いることも契約上は「目的内」となるため、かかる行為を禁止することはできないこととなる。そのため、対象用途は「甲と乙の共同での開発行為に限定される」と規定するべきである。
  • 事業に必須のコア技術が特許等により保護されていない限り、秘密保持契約および本モデル契約が自社の技術・ノウハウを保護する数少ない手段となる。
  • 協業に向けた協議を開始する段階では、協業内容が明確でない場合も多いが、上記の点なども考慮し、目的をできるだけ具体的に定めることが必要である。

2条(定義)

第2条 本契約において使用される次に掲げる用語は、各々次に定義する意味を有する。

1 本検証

 第1条に定める甲の技術導入・適用に関する検証をいい、具体的な作業内容は別紙●●に定めるところとする。

2 本報告書

 甲が乙に提供する、本検証に関する報告書その他の資料をいい、具体的な作業内容は別紙●●に定めるところとする。

3 知的財産権

 次に掲げる全てのものおよび外国におけるこれらに相当する権利をいう。

①  知的財産基本法2条2項に定める権利

②  特許を受ける権利、実用新案登録を受ける権利、意匠登録を受ける権利、商標登録出願により生じた権利および回路配置利用権の設定の登録を受ける権利

③  営業秘密およびノウハウを利用する権利

<ポイント>

  • 本モデル契約で使用する各用語の定義を定める条項である。
  • 本検証および本報告書の具体的な内容については、別紙により特定することとした。

<解説>

  • 「本報告書」は、本検証の成果物を意味し、具体的にはレポート等の資料を前提としている。

  • 本モデル契約は「技術検証(PoC)契約」となっているが、その実質は別紙に特定された本検証を行い、本報告書を作成することを業務とする業務委託契約(準委任契約)である。従って、本検証および本報告書の内容を一定程度詳細に特定しておかないと、後々トラブル(いつまで経っても検証がまだ終わっていないとして追加作業や報告が発生するなど)が生じる可能性がある。そのため、別紙において、検証の計画・スケジュールを含め、ある程度の詳細事項を特定する必要がある。

  • なお、上記条項案では、「知的財産権」の定義として、「営業秘密およびノウハウを利用する権利」を含めている。

  • PoC後に締結する共同研究開発契約において、「知的財産権」を事業会社に移転する旨の条項が入ると、スタートアップのノウハウおよび営業秘密を利用する権利も事業会社に移転するものと解釈されるおそれがある。

  • そこで、「知的財産」と「知的財産権」を分けて定義することで、「知的財産権」から「営業秘密およびノウハウを利用する権利」を除外することも考えられる。

3条(本検証)

第3条 乙は、甲に対し、本検証の実施を依頼し、甲はこれを引き受ける。

2 甲は、本契約締結後3週間以内に、乙に本報告書を提供する。

3 本報告書提供後、乙が、甲に対し、本報告書を確認した旨を通知した時、または、乙から書面で具体的な理由を明示して異議を述べることなく1週間が経過した時に乙による本報告書の確認が完了したものとする。本報告書の確認が完了した時点をもって、甲による本検証にかかる義務の履行は完了するものとする。

4 乙は、甲に対し、本報告書提出後1週間が経過するまでの間に前項の異議を述べた場合に限り、本報告書の修正を求めることができる。

5 前項に基づき、乙が本報告書の修正を請求した場合、甲は、速やかにこれを修正して提出し、乙は、提出後の本報告書につき再度確認を行う。再確認については、本条第3項および第4項を準用する。

<ポイント>

  • スタートアップが担当する業務が本検証であることを定めている。
  • 本モデル契約で想定している検証とは、一定のサンプルを用いて対象技術の導入・適用による開発可否や妥当性の評価を行うことである。
  • 一定の成果物を完成させる(請負型)のではなく、検証のための業務の実施を目的としたもの(準委任)である。

<解説>

  • 本報告書の提供後、いつまでも本検証の追加作業を依頼されることを防ぐために報告書の完了規定(3項)を設けることがポイントとなる。
  • 確認の期限は、本報告書の内容が別紙の項目を満たしているかを確認するための期間である。適切な期間は本検証の内容によっても異なるが、通常は1週間程度が妥当と考えられる。

4条(委託料および費用)

第4条 本検証の委託料は●万円(税別)とし、本契約締結時から10営業日以内に全額を、甲が指定する金融機関の口座に振込送金する方法により支払うものとする。振込手数料は乙の負担とする。

<ポイント>

  • 本モデル契約における業務の対価としての委託料の金額、支払時期および支払方法を定める条項である。
  • 委託料については、固定金額とする他に、人月単位または工数単位に基づく算定方法のみ規定し、毎月の委託料を算定する方法とすること等が考えられる。

<解説>

  • 委託料の支払方法としては、①一定の時期に一括して支払う方式、②着手時および本報告書提出時等に分割して支払う方式、③一定の業務時間に達するごとに当該業務時間分の対価を支払う方式等様々な方式がある。
  • 本モデル契約では、スタートアップの資金繰りも考慮し①の方式を採用している。

5条(甲の義務)

第5条 甲は、善良なる管理者の注意をもって本検証を遂行する義務を負う。
ただし、前条の委託料の支払を受けるまでは、甲は本検証に着手する義務、およびこれによる責めを負わない。

2 甲は、本検証に基づく何らかの成果の達成や特定の結果等を保証するものではない。

<ポイント>

  • 本検証を履行するに際してのスタートアップの法的義務および結果に対する非保証を定めた条項である。
  • 本モデル契約の法的性質は準委任契約であることから、スタートアップが善管注意義務を負うことを確認している。
  • 検証段階という性質に鑑み、スタートアップが完成義務を負うものではないことも明確にしている。

6条(共同研究開発契約の締結)

第6条 甲および乙は、本検証から研究開発段階への移行および共同研究開発契約の締結に向けて最大限努力し、乙は、本契約第3条第3項に定める本報告書の確認が完了した日から2ヶ月以内に、甲に対して共同研究開発契約を締結するか否かを通知するものとする。

<ポイント>

  • 共同研究開発契約への移行についての規定である。

<解説>

  • PoCは、共同研究開発契約移行のための実証段階という性質を有していることから、当事者に共同研究開発契約締結の努力義務を課している。
  • PoC後に次のステップに進むかどうか未確定なままで時間が経過することを避けるため、事業会社に対し一定期間内に共同研究開発契約を締結するか否かの通知義務を課している。
  • 共同研究開発契約の締結を促すとともに、本モデル契約の委託料が研究開発段階に至らずPoC段階で終了する場合の対価であることをより明確化する観点から、以下のような規定とすることも考えられる。

【変更オプション - 共同研究開発契約を締結しない場合の追加委託料】

 甲および乙が、本契約第3条第3項に定める本報告書の確認が完了した日から4ヶ月以内に、共同研究開発契約を締結しなかった場合は、乙は、甲に対し、本検証の追加の委託料として、本報告書確認完了から5ヶ月以内に●万円(税別)支払うものとする。

<解説>

  • 事業会社としては、PoC段階があくまで共同研究開発段階の前提であるため、委託料を低額に抑えるという判断になることも多い。
  • スタートアップとしては、共同研究開発に進めるのであれば、PoC段階では低額な委託料に甘んじるという方針もあり得る。
  • そこで、これらの思惑の調整規定として、共同研究開発契約が締結されなかった場合は、PoC費用の追加分の支払義務を規定している。
  • 契約交渉においては、PoC段階後、必ずしも共同研究開発段階に進まないことも多いことから、本条と委託料を関連付けて交渉することが望ましい。

7条(乙が甲に提供する資料等)

第7条 乙は、甲に対し、本検証に合理的に必要な資料、データ、機器、設備等の提供、開示、貸与等その他本検証に必要な協力を行うものとする。

<ポイント>

  • 本検証に際して、事業会社による資料等の提供その他の協力義務、および提供された資料等に起因する責任について取り決めた規定(追加オプションの2項および3項)である。

<解説>

  • 本検証において、事業会社がスタートアップに対して提供する資料等が重要な位置づけとなる場合には、以下の通り、当該資料等の開示権限の有無・適法性について事業会社の表明保証を定めたり、その内容に誤りがあったり、提供等が遅延したために、本検証の遅延や本報告書に瑕疵等が生じた場合にスタートアップが責任を負わない旨を定めることも考えられる。

【追加オプション - 乙提供資料等についての責任】

2 乙は、甲に対し、前項に定める資料、データ、機器、設備等を甲に提供等することについて、正当な権限があること、および、かかる提供等が法令に違反するものではないことを保証する。

3 乙が甲に対し提供等を行った資料およびデータの内容に誤りがあった場合、またはかかる提供等を遅延した場合、これにより生じた本検証の遅延、本報告書の瑕疵(法律上の契約不適合を含む。)等の結果について、甲は責任を負わない。

8条(秘密情報、データおよび素材等の取扱い)

第8条 甲および乙は、本検証の遂行のため、文書、口頭、電磁的記録媒体その他開示等の方法ならびに媒体を問わず、また、本契約の締結前後に関わらず、甲または乙が相手方(以下「受領者」という。)に開示等した一切の情報およびデータ、素材、機器およびその他有体物ならびに本検証によって得られた情報(本報告書に記載された情報を含む。)(別紙●●に列挙のものを含む。以下「秘密情報等」という。)を秘密として保持し、秘密情報等の開示等した者(以下「開示者」という。)の事前の書面による承諾を得ずに、第三者に開示等または漏えいしてはならないものとする。

2 前項の定めにかかわらず、次の各号のいずれか一つに該当する情報については、秘密情報に該当しない。

①  開示者から開示等された時点で既に公知となっていたもの

②  開示者から開示等された後で、受領者の帰責事由によらずに公知となったもの

③  正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに適法に開示等されたもの

④  開示者から開示等された時点で、既に適法に保有していたもの

⑤  開示者から開示等された情報を使用することなく独自に取得し、又は創出したもの

3 受領者は、秘密情報等について、事前に開示者から書面による承諾を得ずに、本検証の遂行の目的以外の目的で使用、複製および改変してはならず、本検証遂行の目的に合理的に必要となる範囲でのみ、使用、複製および改変できるものとする。

4 受領者は、秘密情報等について、開示者の事前の書面による同意なく、秘密情報等の組成または構造を特定するための分析を行ってはならない。

5 受領者は、秘密情報等を、本検証の遂行のために知る必要のある自己の役員および従業員(以下「役員等」という。)に限り開示等するものとし、この場合、本条に基づき受領者が負担する義務と同等の義務を、開示等を受けた当該役員等に退職後も含め課すものとする。

6 本条第1項および同条第3項ないし第5項の定めにかかわらず、受領者は、次の各号に定める場合、可能な限り事前に開示者に通知した上で、当該秘密情報等を開示等することができるものとする。

① 法令の定めに基づき開示等すべき場合

② 裁判所の命令、監督官公庁またはその他法令・規則の定めに基づく開示等の要求がある場合

③ 受領者が、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士等、秘密保持義務を法律上負担する者に相談する必要がある場合

7 本条第1項および同条第3項ないし第5項の定めにかかわらず、甲および乙は、相手方の事前の承諾なく、以下の事実を第三者に公表することができるものとする。

 甲乙間で、本検証が開始された事実

8 本検証が完了し、もしくは本契約が終了した場合または開示者の指示があった場合、受領者は、開示者の指示に従って、秘密情報等(その複製物および改変物を含む。)が記録された媒体、ならびに、未使用の素材、機器およびその他有体物を破棄もしくは開示者に返還し、また、受領者が管理する一切の電磁的記録媒体から削除するものとする。なお、開示者は受領者に対し、秘密情報等の破棄または削除について、証明する文書の提出を求めることができる。

9 受領者は、本契約に別段の定めがある場合を除き、秘密情報等により、開示者の知的財産権を譲渡、移転、利用許諾するものでないことを確認する。

10 本条は、本条の主題に関する両当事者間の合意の完全なる唯一の表明であり、本条の主題に関する両当事者間の書面または口頭による提案、およびその他の連絡事項の全てに取って代わる。

11 本条の規定は、本契約が終了した日より5年間有効に存続するものとする。

<ポイント>

  • 相手から提供を受けた秘密情報等の管理方法に関する条項である。

<解説>

秘密情報の定義

  • 秘密情報の定義については、当事者間でやりとりされる情報を包括的に対象とする場合と、個別に秘密である旨の特定を要求する場合があるが、簡易迅速に行うことが多いPoC段階において、秘密である旨の特定を忘れることによるリスクを避けるため、前者の規定を原則とした。
  • 他方で、秘密情報を「一切の情報」と包括的に定義すると、範囲が広過ぎるとして有効性が争われ、逆に保護の範囲が狭まってしまう(秘密情報とは保護に値する情報を意味すると限定解釈される)リスクが発生する。このリスクを排除するためには、「秘密を指定」する条文を採用すればよい。
  • なお、「秘密を指定」する条文オプションとその背景となる秘密情報の範囲に関する考え方については、「秘密保持契約」のモデル契約書に詳細に解説しているため、そちらを参考にされたい。

【コラム】秘密情報管理の詳細については以下も参照されたい

技術検証が開始された事実の公表

  • スタートアップにとって重要な条項となるのが本条第7項である。スタートアップにとって、自社技術が事業会社への導入の技術検証のフェーズまで進んだとの事実は、投資家やユーザーに対する効果的なPR材料になる場合が多く、スタートアップがかかる事実の公表を望むケースが多い。
  • しかし、本条7項のような規定が入っていない場合、秘密情報の定義の内容によっては、かかる事実の第三者への公表が守秘義務違反を構成するか否かが曖昧なケースも存在し、スタートアップが公表に踏み切れないケースや、事業会社に事前に許可を求め、社内決裁等の関係で発表すべきタイミングに発表できないケースも散見される。
  • そこで、本モデル契約においては、検証が開始された事実は公表しても問題ないと合意できたと想定し、公表を積極的に許可する規定を設けることで、かかる弊害を回避することとした。

秘密保持契約とPoC契約内の秘密保持条項の関係

  • 秘密保持契約に引き続いてPoC契約を締結する場合、秘密保持契約とPoC契約内の秘密保持条項の関係が問題となる。
  • PoC契約において秘密保持条項を設けず前者が引き続き適用されるとすることもあるが、本モデル契約においては、秘密保持契約の締結時点よりも、秘密情報の対象について具体的な情報整理が進んでいると想定し、本PoC契約内の秘密保持条項が、すでに締結されている秘密保持契約を上書きすることを10項で明記している。
  • この点について、すでに締結した秘密保持契約の内容を本PoC契約で上書きすることで齟齬が生じないか、十分に注意して規定する必要がある。

新たな秘密保持条項の必要性

  • PoC段階など、相手方から提供を受けた秘密情報と並んで、検証結果などの成果物情報が存在する場合、これらの成果物情報(いわゆるフォアグラウンド情報)も秘密保持の対象とする必要がある。すでに秘密保持契約を締結している場合も多いと思われるが、秘密保持契約では秘密情報の定義上、フォアグラウンド情報が含まれるかどうかが曖昧なケースが多いため、別途PoC契約で秘密保持契約条項を設ける必要がある。
  • PoC契約で新たに秘密保持条項を設ける場合、秘密保持契約を全て上書きする場合(上記の条項案の例)と、秘密保持契約の条項を活かしつつ、追加で必要な条項のみ追加する場合がありうる。PoC契約締結までの契約交渉を簡便にするという観点からは、後者の方法に依ることも考えられる。

9条(本報告書等の知的財産権)

第9条 本報告書および本検証遂行に伴い生じた知的財産権は、乙または第三者が従前から保有しているものを除き、甲に帰属するものとする。

2 甲は、乙に対し、乙が本検証の遂行の目的のために必要な範囲に限って、乙自身が本報告書を使用、複製および改変することを許諾するものとし、著作者人格権を行使しないものとする。

<ポイント>

  • 本報告書であるレポート等の著作権その他の知的財産権の取扱いおよび利用条件について取り決めている。

<解説>

本報告書および本検証遂行に伴い生じた知的財産権の帰属

  • 本報告書であるレポートや、その他本検証の過程で生じる知的財産権の取扱いについては、スタートアップ・事業会社間で争いが生じることがあるので、契約において規定しておくことが重要である。
  • 本モデル契約では本検証の作業主体がスタートアップであることを前提として、知的財産権はすべてスタートアップに帰属することと規定している。
  • スタートアップに帰属する知的財産権の出願は、秘密保持契約等他の条項に抵触しない限りにおいてスタートアップが自由に行うことができるが、事業会社が従前から保有していた知的財産権等(バックグラウンドIP)との関係で紛争が起こることを回避するため、以下の【追加オプション - 出願の事前通知】に記載するようにスタートアップの出願前に事業会社への通知義務を設定することも考えられる。
  • なお、本報告書の利用が第三者の知的財産権を侵害しないことの保証を求められる場合もあるが、本モデル契約では、PoC段階では、完成させるべき成果物が定まっていないことから、第三者の知的財産権の侵害の有無を判断する前提となる事実関係が固まっておらず、侵害の有無の確認が困難であること等を踏まえ、保証条項は設けないこととした。

技術検証段階におけるスタートアップと事業会社の関係性

  • 事業会社としては、委託料を払っている以上、本報告書を含むすべての知的財産権は事業会社に帰属すべきと考えるかもしれない。しかしながら、PoC契約における委託料は原則としてスタートアップの検証作業に対する対価であり、これにより発生した知的財産権の譲渡を受けるためには、別途それに見合った対価を支払う必要がある。
  • なお、本来避けるべきであるが、万が一、スタートアップおよび事業会社に共有帰属にせざるを得ない状況では、第三者への利用許諾を含め独立して知的財産権を行使すること(サブライセンスフリー)に事前同意する旨を定めることは不可欠である。
  • 事業会社は、オープンイノベーションを通じて自社の事業を加速させるという観点から、スタートアップとの間で適切な知的財産権の分配を行うというスタンスの重要性を意識した上で、PoC段階において最も重要なのは共同開発の実現に向けた報告書の内容であり、その知的財産権の帰属ではないことを認識されたい。

【追加オプション条項:出願の事前通知】

 甲は、本条第1項の知的財産権のうち、特許権、実用新案権、回路配置利用権、意匠権および商標権について出願をしようとするときは、予め乙にその概要を文書で通知するものとする。

<解説>

  • 仮に本条第1項の知的財産権(本報告書および本検証遂行に伴い生じた知的財産権)がスタートアップに単独に帰属するとしても、スタートアップには守秘義務があることから、事業会社の秘密情報を含めた形で特許出願をしてはならないことは自明である。
  • 事業会社からすると、スタートアップの出願に伴い、本検証を通じてスタートアップが得た事業会社の秘密情報が対外的に開示等されることは大きなリスクであるから、少なくとも本条のような事前の通知を要望することが多い。

追加オプション条項:フィードバック規定】

 本検証遂行の過程で、乙が甲に対し、本検証に関して何らかの提案や助言を行った場合、甲はそれを無償で、甲の今後の製品の改善のために利用することができるものとする。

<解説>

  • 本検証において、事業会社からスタートアップに対し提案や助言(フィードバック)が行われることも多いが、フィードバックの権利性で後にトラブルが発生しないようにする観点から、これらの利用について上記のように規定することも考えられる。

10条(損害賠償)

第10条 甲および乙は、本契約の履行に関し、相手方が契約上の義務に違反しまたは違反するおそれがある場合、相手方に対し、当該違反行為の差止めまたは予防および原状回復の請求とともに損害賠償を請求することができる。

2 甲が乙に対して負担する損害賠償は、故意または重大な過失に基づくものである場合を除き、本契約の委託料を限度とする。

<ポイント>

  • 契約の履行に関して契約違反が生じた場合の違反行為の停止等および損害賠償責任に関する条項である。

<解説>

  • 損害賠償責任の範囲・金額・請求期間についてどのように定めるかについては、本検証の内容やコストの負担、委託料の額等を考慮してスタートアップ・事業会社の合意により決められるケースもあるが、本条案では具体的な損害賠償額は定めず、以下のとおりその上限のみ定めた。
  • 本モデル契約では、スタートアップの損害賠償の範囲について、何を請求原因とするのかにかかわらず、損害賠償額の上限は委託料を限度とすることを定めている。
  • 但し、故意・重過失の場合には、上限規定は適用されないものとしている。損害発生の原因が故意による場合には、免責・責任制限に関する条項は無効になると解釈されるおそれがあり、故意に準ずる重過失の場合(例えば、重大な情報の漏洩等)にも同様に無効とするのが有力な考え方であることから、このような規定を設けた。
  • 本モデル契約は、損害立証が困難な秘密情報を取り扱うものであり、かつ、収益性が不明確な研究・開発段階の契約であることから、違反行為による損害の発生を事前に予防、あるいは損害が発生しつつある場合にはそれを最小限に留めることに越したことはない。そこで本条では、損害賠償以外にも違反行為の停止または予防および原状回復の請求が行えることとしている。具体的には、特定の行為を求める仮処分や訴訟手続きなどを行うこととなる。

11条(解除)

第11条 甲または乙は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。

① 本契約の条項について重大な違反を犯した場合

② 支払いの停止があった場合、または競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立てがあった場合

③ 手形交換所の取引停止処分を受けた場合

④ 本報告書および本検証遂行に伴い生じた知的財産権の有効性を争った場合

⑤ その他前各号に準ずるような本契約を継続し難い重大な事由が発生した場合

2 甲または乙は、相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めてなした催告後も、相手方の債務不履行が是正されない場合は、本契約の全部または一部を解除することができる。

<ポイント>

  • 契約解除に関する一般的規定である。

<解説>

  • 4号においては、本報告書および本検証遂行に伴い生じた知的財産権の有効性を争った場合には、契約を解除できることとしている(いわゆる不争条項)。
  • スタートアップとしては、以下のようないわゆるチェンジオブコントロール条項(COC条項)等により、M&Aが本モデル契約の解除事由として定められると、M&Aに先立つデューデリジェンスにおいてリスクとして評価されうる。

【解除事由としてのCOC条項の例】

他の法人と合併、企業提携あるいは持ち株の大幅な変動により、経営権が実質的に第三者に移動したと認められた場合
  • かかる条項が解除事由に含まれている場合は、これらの支障を説明した上で削除を求めることも検討を要する。
  • 事業会社より、スタートアップが競合企業に吸収合併されて秘密情報が競合にわたってしまうことを懸念してCOC条項の導入が求められる場合も考えられる。
  • その場合には、当該懸念を解消するべく、解除事由となる経営権の移転先を競合会社(具体的に会社名を列挙することも考えられる。)に限定した上でCOC条項を導入することも考えられる。

12条(期間)

第12条 本契約は、本契約の締結日から6ヶ月、または、第3条第3項に定める確認が完了する日のいずれか早い日まで効力を有するものとする。

<ポイント>

  • 契約の有効期間を定めた一般的条項である。

<解説>

  • 本モデル契約では、本報告書の提出期限(3条2項)を基準に有効期間を定めることとしつつも、事業会社が確認をしない限り、いつまでも技術検証契約が続いてしまうことが想定されることから、最長でも6ヶ月を超えないこととしている。

13条(存続条項)

第13条 本契約が期間満了または解除により終了した場合であっても本契約第5条第2項(甲の義務)、第6条(共同研究開発契約の締結)、第7条(乙が甲に提供する資料等)第2項および第3項、第8条(秘密情報、データおよび素材等の取扱い)から第12条(損害賠償)、本条、第14条(準拠法管轄裁判所)ならびに第15条(誠実協議義務)の定めは有効に存続する。

<ポイント>

  • 契約終了後も効力が存続すべき条項に関する一般的規定である。

14条(準拠法および管轄裁判所)

第14条 本契約に関する紛争については、日本国法を準拠法とし、●地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

<ポイント>

  • 準拠法および紛争解決手続きに関してとして裁判管轄を定める条項である。

<解説>

  • クロスボーダーの取引も想定し、準拠法を定めている。
  • 紛争解決手段については、上記のように裁判手続きでの解決を前提に裁判管轄を定める他、各種仲裁によるとする場合がある。

【変更オプション1 ― 知財調停】

第14条 本契約に関する知的財産権についての紛争については、日本国法を準拠法とし、まず[東京・大阪]地方裁判所における知財調停の申立てをしなければならない。

2 前項に定める知財調停が不成立となった場合、前項に定める地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

3 第1項に定める紛争を除く本契約に関する紛争(裁判所の知財調停手続きを含む。)については、日本国法を準拠法とし、第1項に定める地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

<解説>

  • 紛争解決手段について、どの裁判管轄ないし紛争解決手段が適切かは一概には決められず、当事者の話し合いで決定するのが望ましい。話し合いによる解決を目指す場合、東京地方裁判所および大阪地方裁判所において創設された知財調停を利用することが考えられる。
  • 「知財調停」は、ビジネスの過程で生じた知的財産権をめぐる紛争を取り扱う制度であり、仲裁手続き同様、非公開・迅速などのメリットがあるだけでなく、専門的知見を有する調停委員会の助言や見解に基づく解決を行うことができ、当事者間の交渉の進展・円滑化を図ることができるというメリットがある。
  • 運用面では、原則として、3回程度の期日内で調停委員会の見解を口頭で開示することにより、迅速な紛争解決の実現を目指すとされており、迅速に解決でき、コストや負担を軽減できる可能性がある。
  • 知財調停を利用するためには、東京地方裁判所または大阪地方裁判所いずれかを,合意により調停事件の管轄裁判所とする必要がある。
  • 知財調停は、当事者双方が話合いによる解決を図る制度であるため、当事者が合意できず調停不成立となった場合は、訴訟等の手続きにより別途紛争解決が図られることとなる。
  • また、仲裁手続きは、裁判と比べて非公開・迅速などのメリットもあることから、スタートアップのような事案では、本条に変えて下記のような仲裁条項に変えるという選択肢もある。

【変更オプション2 - 仲裁条項例】

本契約に関する一切の紛争については、日本国法を準拠法とし、(仲裁機関名)の仲裁規則に従って、(都市名)において仲裁により終局的に解決されるものとする。

<ポイント>

紛争解決手続きとして仲裁を指定する条項である。

<解説>

  • 仲裁手続きは、裁判と比べて非公開・迅速などのメリットもあることから、スタートアップのような事案では、本条に変えて仲裁条項に変えるという選択肢もある。

15条(協議解決)

第15条 本契約に定めのない事項または疑義が生じた事項については、協議の上解決する。

<ポイント>

  • 紛争発生時の一般的な協議解決の条項である。

その他の追加オプション条項

再委託

第●条 甲は、【乙が書面によって事前に承認】した場合、本検証の一部を第三者(以下「委託先」という。)に再委託することができるものとする。なお、乙が上記の承諾を拒否するには、合理的な理由を要するものとする。

2 前項の定めに従い委託先に本検証の遂行を委託するこの場合、甲は、本契約における自己の義務と同等の義務を、当該委託先に課すものとする。

3 甲は、委託先による業務の遂行について、乙に帰責事由がある場合を除き、自ら業務を遂行した場合と同様の責任を負うものとする。ただし、乙の指定した委託先による業務の遂行については、甲に故意または重過失がある場合を除き、責任を負わない。

<ポイント>

  • 本検証の遂行に際しての再委託の可否および再委託が行われた場合のスタートアップの責任内容について定める条項である。

<解説>

  • 再委託の可否については、再委託について事業会社の事前承諾を要するパターンと再委託先の選定について原則としてスタートアップの裁量により行えるパターンが考えられる。
  • 技術の導入検証においては、スタートアップの技術力に着目して契約が締結されることや、事業会社が提供する資料等の取扱いについて事業会社のコントロールを及ぼすという観点から、本モデル契約においては事業会社の同意を取得することとしている。

契約内容の変更

第●条 本検証の進捗状況等に応じて、検証事項が想定外に拡大した等の事情により、検証期間、委託料等の契約条件の変更が必要となった場合、甲または乙は、その旨を記載した書面をもって相手方に申し入れるものとする。当該申し出があった場合、甲および乙は、速やかに契約条件の変更の要否について協議するものとする。

2 前項の協議に基づき、本契約の内容の一部変更をする場合、甲および乙は、当該変更内容が記載された、変更契約を締結するものとする。

<ポイント>

  • 契約の内容に変更が生じた場合における、契約変更の手続について定めた規定である。

権利義務の譲渡の禁止

第●条 甲および乙は、互いに相手方の事前の書面による同意なくして、本契約上の地位を第三者に承継させ、または本契約から生じる権利義務の全部もしくは一部を第三者に譲渡し、引き受けさせもしくは担保に供してはならない。

<ポイント>

  • 契約上の地位については相手方の承諾なく譲渡できないとする一般的規定である。

本契約締結の証として、本書2通を作成し、甲、乙記名押印の上、各自1通を保有する。

    年  月  日


(別紙●●)第2条1項関連

本検証にかかるプロセスは概ね以下のとおりとする。なお、本別紙と本モデル契約が矛盾抵触する場合、本別紙が優先する。

① 乙は甲に対して、本検証の対象となる製品(ヘッドライトカバー)に関する図面、仕様に関する情報、本検証において期待される放熱性能を含めた目標スペック、その他本検証を甲が進めるにあたり必要となる情報を提供する。

② 甲は乙から提供された情報を基に、本検証にかかる詳細計画・スケジュールを提示する。詳細計画は以下を含む。

  • αを添加したヘッドライトカバーの材料を成形して製造される試験片の形状・寸法などの詳細
  • 試験片に対して行われる試験項目(放熱特性の他、機械的強度や疲労特性などを含む。)
  • その他、乙により特に要望された事項が存する場合、当該事項

③ 甲は当該計画に沿って本検証を行い、乙に対して本報告書を納品する。乙は本報告書を速やかに確認し、以下の事項を含む通知を相当な期間内に行う。

(i) 共同開発に移行するかどうかの結論

(ii) 放熱特性を含む以下の項目に関する生データを含めた乙の評価結果

 (a) ・・・

 (b) ・・・

(iii) 共同開発に移行しない場合はその理由

(改善すべき特性の指摘など、具体的な事柄を明記すること。)

④ 甲乙は評価結果が当初想定されたレベルの場合、原則として共同開発契約に移行することとし、そのための措置を速やかに採る。

<解説>

  • すでに、秘密保持契約段階で①②が終了している場合は、詳細計画・スケジュールを別紙として添付することとする。