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3_モデル契約書v1_0_共同研究開発契約書(新素材編)_逐条解説あり.md

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モデル契約書ver1.0 共同研究開発契約書(新素材)

想定シーン

  1. 自動車部品メーカーY社は、X社(樹脂に添加可能な放熱に関する新素材を開発した大学発スタートアップ)から本素材の性能および耐久性に関する検証レポートを受領した後、社内検討を行い、正式にX社との共同研究開発を行うことが決定した。
  2. 契約交渉においては、双方の意向として、以下の点が挙げられた。
    1. X社としては、資金調達の観点からもY社との共同研究開発を開始した時点、および、一定の成果が出た時点で、それぞれ公表したい。
    2. Y社としては、研究開発の結果生まれた成果物にかかる知的財産権は自社の帰属としたい。
    3. 他方、X社としても、(1)上場審査やM&Aに先立つデューデリジェンスにおいてマイナス評価を受けないために、また、(2)自由度を確保して多数の企業とのアライアンスを実施し市場を拡大して売上を増加させるために、研究開発の結果生まれた成果物にかかる知的財産権は自社の単独帰属としたい。ただし、その場合であってもY社による成果物利用の用途を限定して、当該用途以外の成果物の他社への展開が阻害されない形であれば、当該用途においては成果物をY社のみが使用できるようにすることはやむを得ないと考えている。
    4. 協議の結果、単独発明による成果物にかかる知的財産権は当該発明を行った当事者に単独帰属、共同研究開発の成果物にかかる知的財産権はX社に単独帰属させた上で、Y社に対して、一定期間・一定の領域において独占権を認める無償の通常実施権を設定することとした。
    5. 研究開発の進め方としては、次のとおりとする。X社が技術者をY社に派遣し、X社およびY社の技術者が共同でY社の設備を用いて、本素材をポリカーボネート樹脂組成物(量産品を念頭においた組成物)に配合し、ヘッドライトカバーの試作品を作成する。X社の技術者の立会いのもと、Y社は当該試作品について、性能検査や耐久試験を行う。そして、性能検査や耐久試験の結果をもとに、X社は、当該素材の表面処理を調整し、再度、ポリカーボネート樹脂組成物への配合、試作品の製造、検査を行う。
    6. 試作品が製品としての目処がついた時点で、Y社は量産化のための原料の調達、量産ラインの準備等の作業を行う。
  3. 上記については、両社特段異論はなかったが、最大の争点は研究費の負担や研究成果に対する報酬の有無および支払条件であった。X社としては、共同研究開発の成果としての知的財産権について一定期間・一定の領域で無償独占的通常実施権を設定するのであれば、Y社が当該共同研究開発にかかる実費や人件費に加えて、事業化に至る前段階で、研究成果に対する報酬も支払ってもらいたいと主張した。
  4. これに対し、Y社としては、最終的に共同研究開発の成果を事業化した場合は何らかの報酬は払うこととするが、事業化に至る前段階の共同研究開発フェーズにおいては実費および人件費のみの支払いとしたいとの意向を伝えてきた。
  5. 協議の結果、実費および人件費については、Y社が負担することとした。一方、研究成果に対する報酬については、研究成果が出てから事業化に至るまでに、Y社内での協議検討や商流の調整等で相当程度の時間を要する反面、事業化に至った場合にどの程度の収益が上がるか不透明な状況であった。そこで、研究成果に対する報酬については、事業化に至る前であっても、研究成果が出た時点で頭金として相当価格を支払うこととし、その後についても、商品販売までのロードマップを策定し、その過程にメルクマールを設定し、各時点において研究成果への対価を支払うことを取り決めた。

目次

前文

 X社(以下「甲」という。)とY社(以下「乙」という。)は、本製品(第1条で定義する。)の研究開発および製品化を共同で実施することについて、次のとおり合意したので共同研究開発契約(以下「本契約」という。)を締結する。

1条(目的)

第1条 甲および乙は、共同して下記の研究開発(以下「本研究」という。)を行う。

記

①本研究のテーマ:甲が開発した技術を適用した、窒化アルミニウムを主体とする高熱伝導性を有するウイスカ―および当該ウイスカーを配合した樹脂組成物(以下「本素材」という。)を成形してなるヘッドライトカバー(以下「本製品」という。)の開発

②本研究の目的(以下「本目的」という。」) :本製品の開発および製品化

<ポイント>

  • 共同研究開発(本研究)のテーマおよび目的に関する規定である。

<解説>

共同研究開発のテーマ(本条1号)

  • 共同研究開発のテーマの記載の抽象度
    • 共同研究開発のテーマは、抽象的に規定し過ぎると双方の認識に齟齬が生じやすい。一方、具体的に規定し過ぎると拡張や変更の度に契約修正の必要が生じる。
    • そこで、本条1号のように、ある程度の幅を持たせつつ抽象的過ぎず、かつ、具体的過ぎない記載とするのが良い。
  • 共同研究開発のテーマの広狭
    • 共同研究開発のテーマの定義は、知的財産権等の取扱いや、競業避止の範囲などに影響する。
    • 例えば、共同研究開発のテーマの定義が広すぎると、自社固有の研究成果(知的財産権等)が共同研究開発(本研究)の成果と解釈され、本契約に従って知的財産権の帰属や成果物の利用関係が規律される(双方が活用可能なものとなる)リスクがある。さらに、不当に広範囲の競業避止義務が課されることにもつながり、本来は自由に研究できるべき研究領域について活動の制限が発生する危険もある。
    • 他方、共同開発のテーマの定義が狭すぎると、実際は共同研究の成果であるにもかかわらず、本契約書の枠外とされてしまい、当該成果に関して勝手に特許出願をされてしまう、または本来禁止したい範囲の競業行為を規制できない等の弊害を生じる可能性がある。さらに、研究のスコープがピボットするたびに、本契約の範囲から逸脱してしまい、再交渉を余儀なくされるリスクもある。
    • そこで、共同研究開発のテーマは、広すぎず狭すぎない実態に即したものとすべきである。

共同研究開発の目的(本条②)

  • 共同研究開発の目的は、両当事者の秘密保持義務の内容および範囲を画するものとしても重要である。
  • 秘密保持義務条項では、両当事者は共同研究開発の目的以外の目的で秘密情報を使用してはならないとの条件が設けられることが一般的である(本契約では11条3項)。
  • 秘密保持義務の内容および範囲を確定する際に、本条で定める共同研究開発の目的が参照されることになる。

2条(定義)

第2条 本契約において使用される用語の定義は次のとおりとする。

① バックグラウンド情報
 本契約締結日に各当事者が所有しており、本契約締結後30日以内に、当該当事者が他の当事者に対して書面で、その概要が特定された、本研究に関連して当該当事者が必要とみなす知見、データおよびノウハウ等の技術情報を意味する。

② 本単独発明
 特許またはその他の知的財産権の取得が可能であるか否かを問わず、本研究の実施の過程で各当事者が、相手方から提供された情報に依拠せずに独自に創作した発明、発見、改良、考案その他の技術的成果を意味する。

③ 本発明
 特許またはその他の知的財産権の取得が可能であるか否かを問わず、本研究の実施の過程で開発または取得した発明、発見、改良、考案その他の技術的成果であって、前号に定める本単独発明に該当しないものを意味する。

<ポイント>

  • 本契約で使われる主要な用語の定義に関する規定である。

<解説>

バックグラウンド情報(本条①)

  • 共同開発を始めるにあたり、最も重要な事柄の一つがバックグランド情報(共同研究開発契約締結時にすでに保有していた技術情報)の管理である。
  • この管理を怠ると、契約締結前に保有していた情報と契約締結後に新たに生じた情報が混在することにより、バックグランド情報であることの主張立証が困難となり、各情報に関する知的財産権の帰属が曖昧になってしまう。
  • そうなると、本来単独の特許として出願できたはずのバックグランド情報が、共同研究開発上の成果物とされてしまい、共有特許や相手方の単独特許となってしまうリスク(コンタミネーションリスク)が生じる。
  • このリスクを極小化するため、本モデル契約では、共同研究開発の開始時点において既に各自が保有しているバックグラウンド情報をリストにして開示・交換することの他、以下のような管理を行うことがある。

    (i) 特許出願になじむ技術情報(例:ノウハウ・データ・ソースコード以外のもの)については特許出願をしておく。 (ii) (i)以外の技術情報については、公証制度やタイムスタンプサービスの利用により、共同開発契約締結時に既に保有していたという証拠化を図る。

  • また、相手方による必要以上の技術情報の開示要求リスクを回避するため、本条ではバックグラウンド情報を「自らが必要とみなす」ものとの定義し、開示するバックグラウンド情報の範囲を自ら決定できることとしている。
  • このように、(i)開示するバックグランド情報の範囲を自ら決定できるようにしておくこと、(ii)開示したバックグランド情報の相手方における扱い(例:秘密保持義務、目的外使用禁止義務、特許出願禁止義務等)を定めておくことが重要である(本モデル契約では第9条第1項の「秘密情報」の定義にバックグラウンド情報を含めることでこの点に対処している)。

「本単独発明」および「本発明」(本条②③)

  • 本モデル契約では第7条において、「本単独発明」に関する知的財産権は当該発明を創出した者に帰属し、「本発明」についてはスタートアップに帰属する旨規定しているため、「本単独発明」と「本発明」の区別は極めて重要である。
  • ここでいう「本発明」とは、「本単独発明」に該当しない発明等と定義されているが、実質的には共同でなされた発明のことを指している。

3条(役割分担)

第3条 甲および乙は、本契約に規定の諸条件に従い、本研究のテーマについて、次に掲げる分担に基づき本研究を誠実に実施しなければならない。

① 乙の担当:本素材を用いた本製品の設計、製作および本製品の特性の評価

② 甲の担当:技術者の派遣。乙の前号の評価の結果を基にした、本素材の表面処理の調整および配合量の検討。本製品の特性の評価への立会い

<ポイント>

  • 両当事者の役割分担(担当業務)を定めた規定である。
  • 共同研究開発契約は、基本的にはそれぞれの役割分担(担当業務)の範囲内で、誠実に研究開発を行い、その成果を報告し合う義務を相互に負う、準委任契約であるという考えが有力である。請負ではないので、契約中に特記事項がない限り、一定の成果を求められることはない。

<解説>

役割分担の範囲の考え方

  • 役割分担は、双方の認識の齟齬を回避すべく、当事者間で認識のすり合わせをしておく必要がある。これを怠ると、ある役割については双方ともに全く着手がなされていないということになりかねない。
  • もっとも、共同研究開発が未実施あるいは開始直後の段階では詳細な役割分担を決めることが困難である。また、共同研究開発の進行に伴って発生する新たな役割(作業)が不明であることからも、詳細な役割分担を定めることは困難であろう。
  • そのような場合においても、本条のように、役割分担の大きな枠組みについてだけでも規定しておくことが望ましい。双方が合意した「枠組み」があれば、後に役割分担の詳細を協議する際もスムーズだからである。

4条(スケジュールの作成)

第4条 甲および乙は、本契約締結後速やかに、前条に定める役割分担に従い、本研究テーマに関する自らのスケジュールをそれぞれ作成し、両社協議の上これを決定する。

2 甲および乙は、前項のスケジュールに従い開発を進めるものとし、進捗状況を逐次相互に報告する。また担当する業務について遅延するおそれが生じた場合は、速やかに他の当事者に報告し対応策を協議し、必要なときは計画の変更を行うものとする。

<ポイント>

  • 共同研究開発(本研究)の具体的内容として、スケジュールの定め方を規定する条項である。

<解説>

  • どのようなタイミングで両者が協議し、具体的なスケジュールや研究テーマ等をどのように確定し、どのように本研究遂行中の問題を解決していくかを決めておくことが重要である。
  • 本条では、本契約の締結後速やかにスケジュールを定めることとなっているが、契約締結時に詳細なスケジュールを定めることは困難である場合も多い。そのような場合は、契約締結時に大まかなスケジュールだけでも定めておき、研究開発の進行に応じ、その都度スケジュールを具体的なものにアップデートしていくことが望ましい。
  • 事業会社の稟議の都合などで、スタートアップがイメージしているよりも報告書や成果物の納品時期が早く、想定外にスケジュールがタイトとなることがある。そのような事態を回避するためにも、大まかなスケジュールだけでも事前に合意しておくべきである。

5条(経費負担)

第5条 乙は、本研究を行うにあたって生じた経費(甲が費消した研究開発にかかる実費および人件費を含む。)を、書面によって別途合意されない限り、全て負担しなければならない。

<ポイント>

  • 本研究に必要な経費を誰が負担するかを定める条項である。共同開発の費用負担は各自がそれぞれの分担範囲で行うというのが我が国の長らくの商慣習であった。しかし、近年のオープンイノベーションの流れに鑑み、本条のように、資金力の豊かな当事者が費用を負担するというケースも散見される。
  • 共同研究開発の実施場所、研究・開発担当者、購入した設備の所有権等が契約終了後どちらの当事者に帰属するかについての規定を定めることも考えられる。

<解説>

研究開発の経費と知的財産権の帰属

  • スタートアップが提供する素材や技術情報が本研究や本製品の開発において重要な意味を持ち、他方、スタートアップの役割分担に要する費用が高額な場合は、本条のように事業会社が全費用を負担するということもある。
  • 事業会社としては、研究開発の経費の多くを負担する場合、実質的には共同研究開発契約ではなく、研究委託契約であるとの理解の下、本研究の結果創出されたすべての知的財産権は事業会社に帰属すべきという主張をしがちである。
  • しかし、研究開発の費用負担は、スタートアップが開発に携わる人を出していることに対応する負担であり、当該費用を負担していることが直ちに成果物の知的財産権の帰属主体となることを正当化するものではない。
  • 他方、共同研究開発の結果生じた知的財産権の取得のための対価は、成果物創出への貢献度等を踏まえて定められるべきものである。通常、かかる知的財産権を発明者でない者が獲得するためには、別途それに見合った対価を支払う必要がある。

スタートアップが知的財産権を保有する重要性

  • 事業会社としては、研究成果に係る知的財産権を取得できずとも、研究成果を(一定の範囲で)独占的に利用できれば事業戦略上支障はないはずである。
  • そこで、双方が研究成果に係る事業を成功させるべく、スタートアップが自社で知的財産権を保有することの重要性にも配慮し、スタートアップに知的財産権を帰属させつつ、事業会社に事業領域や期間等の面で一定の限定を付した独占的利用権を設定することで調整することが、創出された発明の最大活用の観点からは望ましい。
  • スタートアップが自社で知的財産権を保有する重要性とは、
    • ①知的財産権を単独で保有することで事業基盤が強固になり、利益を創出する力が高まる点、および
    • ②資金調達の際に、投資家に対して、知的財産権の単独保有を通じて事業上の強みを高める旨の説明ができる点 にある。
  • 事業会社がスタートアップと対等なパートナーとして付き合う姿勢があれば、スタートアップのコミュニティにおいてもそれが認知され、他のスタートアップからコンタクトされることが期待でき、さらなるイノベーションへのアクセスが容易となる。
  • 事業会社は、自社の事業戦略上の必要性を超えた要求をしていないかを常に確認し、スタートアップとWin-Winとなる条件で契約を締結することが、結果として、新たなイノベーションへのアクセスを高め、それにより長期的な繁栄(Sustainability)がもたらされるということを忘れてはならない。

【変更オプション条項 - 各自負担】

甲および乙は、本研究を行うにあたって自己に生じた経費を、書面によって別途合意しない限り、甲乙各自が負担しなければならない。

6条(情報の開示)

第6条 甲および乙は、本契約締結後30日以内に、各自のバックグラウンド情報(もしくはその概要)を書面で相手方に開示し、特定しなければならない。

2 甲および乙は、本契約の有効期間中、自己が担当する業務から得られた技術情報を速やかに相手方当事者に開示する。ただし、第三者との契約により当該開示を禁止されているものについては、この限りではない。

<ポイント>

  • 両当事者がバックグラウンド情報と各自の担当業務から得られた技術的情報を相手方に開示する規定である。

<解説>

  • バックグラウンド情報のうち、特許出願等に馴染むものについては、コンタミ防止の観点から、相手方に開示する前に特許出願等を済ませておくことが望ましい。
  • ただし、特許出願等を済ませていたとしても、特許出願等の内容が公開前の場合は、相手方に開示するかどうかを慎重に判断する必要がある。
  • また、バックグラウンド情報は、「本研究に関連して当該当事者が必要とみなす知見…」であるから、これに該当しない情報、つまり、本研究に関連しない情報や本研究に必要でない情報まで開示しないように注意する必要がある。

7条(知的財産権等の帰属および成果物の利用)

第7条 本単独発明にかかる知的財産権は、その発明等をなした当事者に帰属するものとする。甲および乙は、相手方に対し、各自の本単独発明にかかる知的財産権に基づき、相手方が本製品の設計・製造・販売行為をすることを許諾する。許諾の条件は別途協議の上定める。

2 甲は、乙に対し、下記の条件で乙が本研究の開始以前から甲が保有する別紙
●●に定める特許権に係る発明を実施することを許諾する。
記
  ライセンスの対象 :本製品の設計・製造・販売行為
  ライセンスの種類 :非独占的通常実施権を設定
  ライセンス期間  :本契約締結日から~●年●月●日。ただし、期間が満了する60日前までに、いずれかの当事者が合理的な理由(ライセンスの必要性が消失した場合を含むが、これに限られないものとする)に基づき更新しない旨を書面で通知しない限り、1年間の更新期間で、同条件で自動的に更新されるものとする。
  サブライセンス  :原則不可。ただし、[グループ会社名等]に対するサブライセンスは可能
  ライセンス料   :ライセンス期間中に乙が販売するすべての本製品の正味販売価格の●%(外税)
  地理的範囲    :全世界

3 乙は、甲に対し、前項のライセンス料の計算のため、本契約締結日以降、[期間]毎に、当該期間の販売状況(販売個数・単価、その他ライセンス料の計算に必要な情報を含む。)を当該期間の末日から15日以内に書面で報告するとともに、同30日以内に当該期間に発生したライセンス料を支払うものとする。

4 乙は第2項のライセンス料を甲が指定する銀行口座に振込送金する方法により支払う。振込手数料は乙が負担する。

5 本条のライセンス料の遅延損害金は年14.6%とする。

6 本発明にかかる知的財産権は、甲に帰属する。ただし、甲が本契約14条1項2号および3号のいずれかに該当した場合には、乙は、甲に対し、当該知的財産権を乙または乙の指定する第三者に対して無償で譲渡することを求めることができる。

7 甲は、乙に対し、下記の条件で乙が本発明を実施することを許諾する。
記
  ライセンスの対象:本製品の設計・製造・販売行為
  ライセンスの種類:本契約締結後●年間は独占的通常実施権を設定し、その後は非独占的通常実施権を設定する。ただし、本契約締結後●年間を経過する前であっても、正当な理由なく乙が本発明を1年間実施しない場合には当該期間の満了時より、または、乙が本発明を乙の事業に実施しないことを決定した場合には当該決定時より、非独占的通常実施権を設定する。
  ライセンス期間 :本契約締結日~●年●月●日は独占的ライセンス
           ●年●月●日~本発明にかかる知的財産権の有効期間満了日までは非独占的ライセンス
  サブライセンス :原則不可。ただし、[グループ会社名等]に対するサブライセンスは可能
  ライセンス料  :無償
  地理的範囲   :全世界

8 甲および乙は、本研究の遂行の過程で発明等を取得した場合は、速やかに相手方にその旨を通知しなければならない。相手方に通知した発明が本単独発明に該当すると考える当事者は、相手方に対して、その旨を理由とともに通知するものとする。ただし、本素材を配合したポリカーボネート樹脂組成物またはヘッドライトカバーに関する発明については、本発明であると推定されるものとする。

9 甲は、自らの費用と裁量により、本発明について特許出願を行うことができる。ただし、乙のみが本発明のうちの特定の発明について、または特定の国について特許出願を希望する場合、乙がその費用を負担し、乙の名義で当該発明についてまたは当該国について当該特許出願をなすことにつき、乙は協議を求めることができる。

10 前項ただし書により乙が特許出願を行った場合においては、乙は、甲に対し、出願後●年間、当該発明の独占的許諾権および再実施許諾権を無償で設定するものとし、その後は無償の非独占的通常実施権を設定するものとする。

11 甲および乙は、相手方の同意なくして、相手方から開示等を受けた技術情報(バックグラウンド情報を含む。)およびサンプル、本研究の遂行の過程で相手方が創作した本単独発明、考案またはその他の相手方が取得した技術情報もしくはノウハウについて、日本を含めたいかなる国にも特許、実用新案、商標、著作権またはその他のいかなる知的財産権も出願または登録してはならず、いずれかの当事者がこれに違反した場合は、その違反した当事者に当該出願または登録に関する権利またはその持分を無償で譲渡すべき旨を請求することができる。

12 甲および乙は、本発明または本研究の開始以前から甲が保有する別紙●●に定める特許権に係る発明に改良、改善等がなされた場合、その旨を相手方に対して速やかに通知した上で、本条の定めを適用して当該改良、改善等に係る成果を取り扱うものとする。

<ポイント>

  • 本共同開発に関わる知的財産権等の帰属や成果物の利用について定めた規定である。本モデル契約では、本共同研究以降のスムーズな製造・販売への移行が見通せる状況を想定した上で、共同研究の発明等の成果をスタートアップ側に権利帰属させることについて事業会社からの理解を得るため、本発明にかかる知的財産権の権利の帰属と同時に、その後のライセンス条件についても定める内容としている。
  • 他方、素材分野では、共同開発後にも製品販売までに長期を要するケースも多い。その際は、特許権等のライセンスにかかる詳細な取り決めは、別途ライセンス契約として締結することで、共同研究開発の契約をシンプルにすることも選択肢である。
  • ライセンス料率を決定するためには、スタートアップが提供する特許等の希少性や重要性、本製品の市場規模、販売価格や製品寿命、あるいは本製品の付加価値における当該特許等の貢献度など、個別のケースに応じた幅広な検討が必要である。

<解説>

知的財産権の帰属の考え方

  • 知的財産権の帰属の決定方法は、
    • ①誰が発明したかを問わず、いずれかの当事者に単独帰属させる、
    • ②全て当事者間の共有、
    • ③当該知的財産等を発明した当事者に帰属、
    • ④当事者間で都度協議、 に大別できるが、共同で開発した知的財産権については、創出された発明の最大活用の観点から、スタートアップに単独帰属させることを積極的に検討することが期待される。
  • 現状では、知的財産権の共有は、次の点からスタートアップにとって好ましくない。
    • 特許権を共有にする場合、日本法の下では、当該特許発明の実施は、契約で特段の制限をかけなければ各共有者が自由に実施できる(特許法73条2項)ものの、当該特許の第三者へのライセンスは共有者の許諾がなければ原則としてなし得ない(特許法73条3項)。
    • したがって、例えば、ものづくり系のスタートアップが、第三者に自社プロダクトの製造・量産を依頼するにあたり当該第三者に共有特許をライセンスする必要がある場合、事業会社からライセンスの許可をとらなければならない。しかし、事業会社の社内決裁に時間を要することで事業のスピードが低下したり、そもそもライセンスの許可が下りず、計画が頓挫するといった可能性も否定できない。
    • また、共有特許に係る共有持分の譲渡についても、共有者の同意が必要になる(特許法73条1項)。例えば、スタートアップがM&AによるEXITを目指す場合、M&Aのスキームによっては当該特許の共有持分を個別に買主である企業に譲渡する必要が出てくる場合があり、事業会社の許諾が必要となる。そして、当該許諾を適時に得られなければ、当該M&Aに対する支障となる。
    • 以上は日本法を前提とする。共有特許制度に関する法律の内容は国によってもまちまちであり、グローバルビジネスにおいては、各国の法制に沿って対応する必要があるが、スタートアップにとってこれも大きな負担となる。
  • 結論として、オープンイノベーションを成功させるためには、研究成果についての知的財産権の共有は極力避けることが望ましい。仮に共有にせざるを得ない場合であっても、上記弊害が生じないよう、予め、第三者に対するライセンスについての同意条項を規定するなどの配慮をする必要がある。

成果の利用についての考え方

  • 研究成果についての権利をスタートアップに単独帰属させる場合は、共同研究開発契約締結時に、事業会社に当該権利について一定の範囲での独占的な利用権の設定を含むライセンス条件の設定を予めしておくことなどにより、両当事者の納得が得られる整理を模索すべきである。
  • 本モデル契約では、本発明にかかる知的財産権について、本条6項で甲に帰属させ、同7項で事業会社に対して本製品を販売等する範囲で独占的通常実施権を設定している。
  • もっとも、事業会社が本製品を販売等するためには、その他のスタートアップの知的財産権(具体的には、スタートアップによる単独発明にかかる知的財産権や本研究の開始以前からスタートアップが有している知的財産権)の利用権もあわせて設定しなければならないことがある。
  • そこで、本モデル契約では、単独発明にかかる知的財産権の処理については別途協議するとし(本条1項)、本研究の開始以前からスタートアップが有している知的財産権のライセンスについては、ランニングロイヤルティの方式でライセンス料を計算している(本条2項~5項。なお、ライセンスすべき知的財産権は特許権しかないことを前提としている)。
  • このように個別にライセンス料を設定する方法の他にも、10条の「研究成果に対する対価」の中に同ライセンス料を含ませる方式もある。この場合には、10条の「研究成果に対する対価」の金額に、ライセンス料を加味した額を設定することとなる。
    • 本条においては、本発明のライセンス料を無償としているが、次条に定める研究成果への対価の額や、本発明の汎用性や実用性などを加味し、これを有償にすることも考えられる。
    • また、本条では事業会社に「独占的通常実施権」を設定しており、スタートアップ自身が実施することも確保されているが、「専用実施権」(特許法77条)を設定した場合には、特段の定めをしない限りスタートアップ自身が対象発明を実施できなくなる。両者の違いに注意が必要である。
  • 上記の実施権の設定に加えて、本発明に係る知的財産権をスタートアップに単独帰属させた場合、状況に応じて、事業会社に当該知的財産権買取の交渉オプションを与える、あるいは、独占的通常実施権の独占期間の延長を協議に基づき認める条項等を入れることで、事業会社に配慮するケースもあろう。
  • さらに13条で、一定期間の競業避止義務を定めることで、知的財産権をスタートアップに帰属させることによる事業会社の懸念にも配慮している。
  • 本条では、「競業する事業」の範囲が明確とならないという問題も生じ得ることから、具体的な企業名や製品の特徴を列挙することも検討すべきである。
  • なお、ライセンス期間について、本件では素材が最終的に製品化されて市場で流通するようになるまでに相当期間を要し、当初設定したライセンス期間では、ライセンスに基づき実際に最終製品を販売できる期間が極めて短くなってしまうおそれがあり、事業会社に不都合である。そのため、一定のライセンス期間を確保する要請がある。
  • 他方、徒にライセンス期間を長期化させると、製品化を断念した場合等、ライセンスの必要がない場合にもライセンスが残存することとなり、スタートアップに不都合である。
  • そこで、ライセンス期間は契約締結から一定期間(●年間)としつつも、合理的な理由に基づき更新拒絶をしない限り、ライセンスが自動更新されるものとした。このような建付けにすることにより、契約締結後に判明するライセンスの継続の必要性等を加味しながら、ライセンス期間を柔軟に設定することができる。

スタートアップの事業継続性リスク

  • スタートアップに権利を単独帰属させる場合、事業会社としては、スタートアップが事業に失敗し、破産等、事業継続が困難になった場合、本研究の成果に係る知的財産権が事業会社に対して本条所定のとおりにライセンスされず、本製品の製造等に支障を来すのではないかという懸念を持ちがちである。
  • そこで、本条では、スタートアップに経済的不安が生じた場合には、スタートアップから研究成果に係る知的財産権の譲渡を受けることができるようにした(「事業会社の指定する第三者」は、事業会社のグループ会社や知財管理会社に帰属させる場合を想定している)。
  • ただし、スタートアップが破綻に瀕している状況下での知的財産権の譲受は詐害行為取消(倒産手続上は否認権行使)などのリスクがあることから、実際に知的財産権の譲渡を受ける場合には、スタートアップにおいて事業再生手続などを利用するなどして、債権者の一定の関与のもとで譲渡手続きを進めるのが適切といえる。
  • また、当該スタートアップの価値の大部分を知的財産権(およびこれを開発することのできる人材)が占めるのであれば、事業会社としては、知的財産権の譲受ではなく、当該スタートアップ自体を買収することも検討に値する(無論、債権債務関係が承継される点には留意が必要である)。
  • スタートアップ破綻時のリスクとして、事業会社に与えられた通常実施権が当該特許権を取得した第三者に対抗できるかという点については、「通常実施権は、その発生後にその特許権・・・を取得した者に対しても、その効力を有する。」と規定する当然対抗制度(特許法99条)の対抗力の範囲の問題となるが、現時点では、判例の蓄積が存在しない。よって、差止請求権の不行使およびその対価という、通常実施権に関する主たる法律関係はともかく、独占特約、実施報告義務などの付随的な法律関係についてまで当然に対抗できるかどうかは、議論の余地がある。

【コラム】製造委託の際の実施許諾

  • 自ら量産設備を揃えることが資金的に困難なスタートアップにとって、自社プロダクトの量産を第三者に委託することが時として必須となる。
  • ここで注意しなければならないのは、第三者に特許製品の製造を委託する行為が特許法第73条第3項により他の共有者の同意を要する行為に該当するとされることがあるということである。
  • この点、過去の裁判例から、製造委託に関しては、第三者に対する実施許諾には該当しないとして、特許権が共有の場合であっても他の共有者の同意なく、これを行うことが可能な場合がある。
  • ただし、その要件として、①スタートアップから受託者に関する指揮監督、②委託者(スタートアップ)による製造物の全量引取りなどを具備する必要がある。
  • なお、上記要件において特許の共有者の同意なく製造委託が可能であることは、日本独自の取り決めであり、日本国外においては、一般的になんらかの許諾が必要である。

【コラム】知的財産権の帰属バリエーション

  • 本条では本発明にかかる知的財産権は全てスタートアップに帰属と規定しているが、その他、以下のようなバリエーションがある。
    1. 発明者主義:発明をした発明者が在籍する主体に知的財産権が帰属する。スタートアップと事業会社の従業員が共同で発明をしたら、双方共有の知的財産権となる。知的財産権法のデフォルトルールに沿っており、直感的にフェアな条件であり、合意しやすい。
    2. すべて共有:発明者が誰であろうと、本発明にかかる全ての知的財産権をスタートアップと事業会社の共有とする(持分割合について、等分にする場合や貢献度に応じて定める場合がある)。知的財産権法のデフォルトルールからすると、実際に開発業務を行ったスタートアップの従業員が発明者となるケースが多いと思われるが、事業会社が共同研究開発にかかる費用を支払っていることに鑑みると、事業会社が支払う額によっては「すべて共有」とすることも妥当な落としどころとなる場合もある。ただし、知的財産権を共有とした場合、各自の権利行使について原則として共有者の承諾が必要となるというデメリットが発生することから、第三者への利用許諾を含め、単独で知的財産権を行使できるよう事前の同意を得ておくことが望ましい。
    3. 分野を決めてそれぞれ単独帰属とする方法 共有にかかる知的財産権は活用が難しい。特に、スタートアップとしては、自社の技術を横展開していろいろな企業に使って欲しいのに、共有にかかる特許権を第三者ライセンスすることにつき、事業会社の同意が得られないケースも存在する。そこで、本件においても、多くの用途に適用しうる新素材の汎用的な発明はスタートアップに単独帰属、本製品(ヘッドライトカバー)に特有の発明は事業会社に単独帰属、とする整理も考え得る。

8条(ライセンス料の不返還)

第8条 乙は、本契約に基づき甲に対して支払ったライセンス料に関し、計算の過誤による過払いを除き、本特許権等の無効審決が確定した場合(出願中のものについては拒絶査定または拒絶審決が確定した場合)を含むいかなる事由による場合でも、返還その他一切の請求を行わないものとする。なお、錯誤による過払いを理由とする返還の請求は、支払後30日以内に書面により行うものとし、その後は理由の如何を問わず請求できない。

<ポイント>

  • 支払われたライセンス料についての不返還を定めた条項である。

9条(第三者の権利侵害に関する担保責任)

第9条 甲は、乙に対し、本契約に基づく本製品の製造、使用もしくは販売が第三者の特許権、実用新案権、意匠権等の権利を侵害しないことを保証しない。

2 本契約に基づく本製品の製造、使用もしくは販売に関し、乙が第三者から前項に定める権利侵害を理由としてクレームがなされた場合(訴訟を提起された場合を含むが、これに限らない。)には、乙は、甲に対し、当該事実を通知するものとし、甲は、乙の要求に応じて当該訴訟の防禦活動に必要な情報を提供するよう努めるものとする。

3 乙は、本特許権等が第三者に侵害されていることを発見した場合、当該侵害の事実を甲に対して通知するものとする。

<ポイント>

  • ライセンス対象となる特許権等の非保証を定めた規定である。
  • 1項の特許非保証を前提として、2項は、ライセンシーが第三者から訴訟提起された場合のライセンサーの協力義務を定めたものである。

<解説>

  • ライセンスの対象となる特許等については、第三者の権利侵害がないことを保証する(いわゆる「特許保証」)のが当然だという考え方になりがちである。
  • しかし、特許保証を行うことは、ライセンサーのリスクが非常に高い。スタートアップと事業会社の間の適切なリスク分配という観点からは、特許保証までは行わないという前提で他の条件を定めることが適切である。仮に、特許保証をするにしても、「甲が知る限り権利侵害はない」「甲は権利侵害の通知をこれまで受けたことはない」ことの表明にとどめるべきである。

10条(研究成果に対する対価)

第10条 本研究が所期の目的を達成した時は、乙は、甲に対し、下記の定めに従って研究成果に対する対価を支払うものとする。

記

① 本製品が別紙●●所定の性能を達成した時: ●円

② 本製品を用いたヘッドライトの試作品が完成した時点:
  甲乙別途協議した金額(ただし、●円を下回らないものとする。)

③ 本研究の成果を利用した商品の販売が開始した時点:
  甲乙別途協議した金額(ただし、●円を下回らないものとする。)

<ポイント>

  • 本研究の完了後、事業化に至るまでにおける、研究成果に対する報酬の支払を定める規定である。

<解説>

研究成果の対価交渉の方針・考え方

  • 「想定シーン」で述べたように、研究成果が出てから事業化に至るまでに、事業会社の社内での最終製品の開発・生産準備や商流の調整等で相当程度の時間を要する上に、事業化に至った場合にどの程度の収益が上がるか不透明である場合が少なくない。
  • そこで、研究成果に対する報酬については、事業化に至る前であっても、研究成果が出た時点で頭金として相当価格を支払うこととし(本条①)、その後についても、商品販売までのロードマップを策定し、その過程にメルクマールを設定し、各時点において研究成果への対価を支払うことを取り決め、ただしその額について別途協議の上定めるものとした(本条②③)。
  • この②や③の対価の額の交渉に時間を要することも考えられるが、あくまでも金額が合意できてから作業を開始するのが原則であるから、スタートアップとしてはその交渉期間中に②や③に係る作業だけを進めること(特に、その成果を事業会社側に共有すること)は、程度問題ではあるが、避けたい。
  • そのため、②や③の対価に係る交渉は、収益性等の考慮事項の数値が見えてきた段階で、早めに始めておくことが望ましい。

研究成果に対する報酬発生有無および報酬額

  • 研究成果に対する報酬の有無およびその支払額は、
    • a.共同開発した知財の帰属、
    • b.実施権の許諾範囲、
    • c.競業避止の範囲、
    • d.納品物とその利用範囲、および
    • e.製品のターゲット市場の規模や期待収益 などを考慮して交渉・決定されるべきものである。
  • 本モデル契約では、「① 本製品が別紙●●所定の性能を達成した時」に頭金を支払うこととしている。この金額の設定においては、
    • 研究開発で発生する経費(実費+人件費)は事業会社が負担する形としている点、
    • 共同開発された知財はスタートアップの単独帰属としている点、
    • 事業会社は共有知財について一定期間・一定の領域で無償独占的通常実施権の設定を受ける点、 などを踏まえつつ、事業化に至った際の製品の市場性や利益率等などの経済性、本製品の付加価値における当該特許等の貢献度、そしてライセンスフィーとのバランスなど、個別のケースに応じた幅広な検討が必要である。
  • 他にも、例えば共同研究開発を開始してすぐにスタートアップから開発における重要度の高い知財が事業会社に提供される場合、研究の成否を問わず、契約締結のタイミングで一時金の支払いを設定するという選択肢もあり得るだろう。

【コラム】 マイルストーン方式

  • 上例のように、オープンイノベーションにおいて、事業会社の事業の進捗に応じて、スタートアップに対して、段階的に対価を支払う形式をマイルストーン方式といい、その場合の対価をマイルストーン・ペイメントと呼ぶ。
  • 本条では、研究成果に対する報酬の支払条件を定めるにあたってマイルストーン方式を採用している。
  • この点、創薬の分野では、特許等のライセンス料の支払条件を定めるにあたり、マイルストーン方式が広く採用されているが、他の分野ではほとんど実績がない。
  • しかし、研究成果に対する報酬をマイルストーン方式で支払うことは、資金調達を常に実現しなくてはならないスタートアップ側の事情と、事業の見通しが不確定な状況では多額の対価を支払いたくない事業会社側の事情とを調整する、一つの有効な方法ではないかと期待されており、今後、オープンイノベーションを進めるにあたり、他分野でも導入を検討すべきである。
  • 創薬の分野でマイルストーン方式の採用が進んだ背景としては、マイルストーンの指標として、治験の進行度に合わせたフェーズ(1~4まである)や、各国の行政機関(例:日本ではPMDA)による薬事認証が存在するので、マイルストーン達成の客観性が担保されている点が指摘できる。
  • 他の分野においてもマイルストーン方式を導入する際は、マイルストーンの指標について、その達成(支払条件の具備)につき客観性を担保できるようにしておくことが重要である。
  • 本モデル契約においては、頭金●円の支払が発生する条件を「①本製品が別紙●●所定の性能を達成した時」と定め、マイルストーンの指標を客観的に定めようとしている。

11条(秘密情報、データおよび素材等の取扱い)

第11条 甲および乙は、本研究の遂行のため(以下「本目的」という。)、文書、
口頭、電磁的記録媒体その他開示および提供(以下「開示等」という。)の方法
および媒体を問わず、また、本契約締結の前後にかかわらず、甲または乙が相手方(以下「受領者」という。)に開示等した一切の情報およびデータ、素材、機器およびその他有体物、本研究のテーマ、本研究の内容および本研究によって得られた情報(別紙●●に列挙のものおよびバックグラウンド情報を含む。以下「秘密情報等」という。)を秘密として保持し、秘密情報等を開示等した者(以下
「開示者」という。)の事前の書面による承諾を得ずに、第三者に開示等または
漏えいしてはならない。

2 前項の定めにかかわらず、次の各号のいずれか一つに該当する情報については、秘密情報に該当しない。

① 開示者から開示等された時点で既に公知となっていたもの

② 開示者から開示等された後で、受領者の帰責事由によらずに公知となったもの

③ 正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに適法に開示等されたもの

④ 開示者から開示等された時点で、既に適法に保有していたもの

⑤ 開示者から開示等された情報を使用することなく独自に取得し、又は創出したもの

3 受領者は、秘密情報等について、事前に開示者から書面による承諾を得ずに、本目的以外の目的で使用、複製および改変してはならず、本目的のために合理的に必要となる範囲でのみ、使用、複製および改変できるものとする。

4 受領者は、秘密情報等について、開示者の事前の書面による同意なく、秘密情報等の組成または構造を特定するための分析を行ってはならない。

5 受領者は、秘密情報等を、本目的のために知る必要のある自己の役員および従業員(以下「役員等」という。)に限り開示等するものとし、この場合、本条に基づき受領者が負担する義務と同等の義務を、開示等を受けた当該役員等に退職後も含め課すものとする。

6 本条第1項および同条第3項ないし第5項の定めにかかわらず、受領者は、次の各号に定める場合、可能な限り事前に開示者に通知した上で、当該秘密情報等を開示等することができる。

① 法令の定めに基づき開示等すべき場合

② 裁判所の命令、監督官公庁またはその他法令・規則の定めに基づく開示等の要求がある場合

③ 受領者が、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士等、秘密保持義務を法律上負担する者に相談する必要がある場合

7 本研究が完了し、もしくは本契約が終了した場合または開示者の指示があった場合、受領者は、開示者の指示に従って、秘密情報等(その複製物および改変物を含む。)が記録された媒体、ならびに、未使用の素材、機器およびその他の有体物を破棄もしくは開示者に返還し、また、受領者が管理する一切の電磁的記録媒体から削除するものとする。なお、開示者は受領者に対し、秘密情報等の破棄または削除について、証明する文書の提出を求めることができる。

8 受領者は、本契約に別段の定めがある場合を除き、秘密情報等により、開示者の知的財産権を譲渡、移転、利用許諾するものでないことを確認する。

9 本条は、本条の主題に関する両当事者間の合意の完全なる唯一の表明であり、本条の主題に関する両当事者間の書面または口頭による提案その他の連絡事項の全てに取って代わる。

10 本条の規定は、本契約が終了した日からさらに5年間有効に存続するものとする。

<ポイント>

  • 相手から開示提供等を受けた秘密情報等の管理方法に関する条項である。

<解説>

従前に締結した秘密保持条項との関係整理

  • 秘密保持契約やPoC契約に引き続いて共同研究開発契約を締結する場合、共同研究開発契約よりも前に締結した契約における秘密保持条項と共同研究開発契約における秘密保持条項の関係が問題となる。
  • 共同研究開発契約においては新たな秘密保持条項を設けずに既存の(従前の契約で定めた)秘密保持条項が引き続き適用されるとすることもあるが、本モデル契約においては共同研究開発契約で新たに定める秘密保持条項が、既存の秘密保持条項を上書きすることとしている(本条9項)。
  • 共同研究開発契約において、既存の秘密保持条項とは異なる内容の秘密保持条項を設ける場合は、特にそれらの優先関係に留意しなければならない。

秘密情報の定義(秘密である旨の特定の要否)

  • 秘密情報の定義については、当事者間でやりとりされる情報を包括的に対象とする場合と、個別に秘密である旨の特定を要求する場合があるが、本モデル契約では、様々な情報、データ、素材等がやりとりされることが多い共同研究開発段階において、秘密である旨の特定を忘れることによるリスクが大きいと考え、秘密である旨の特定を要さない前者を採用している。
  • 他方で、秘密情報を「一切の情報」と包括的に定義すると、範囲が広過ぎるとして有効性が争われ、逆に保護の範囲が狭まってしまう(秘密情報とは保護に値する情報を意味すると限定解釈される)リスクが発生する。このリスクを排除するためには、「秘密を指定」する条文を採用すればよい。
  • なお、「秘密を指定」する条文オプションとその背景となる秘密情報の範囲に関する考え方については、「秘密保持契約」のモデル契約書に詳細に解説しているため、そちらも参考にされたい。

秘密情報の定義(秘密情報に有体物を含めるか否か)

  • 共同研究開発では、無体物である情報やデータに加え、有体物である素材それ自体がやり取りされることが多いところ、この素材は、当事者にとっては秘密情報と同様の重要性を持つものである。そこで、本モデル契約では、素材を含む有体物をも保護することとし、有体物を含む保護の対象全体を「秘密情報等」と整理している。
  • また、本モデル契約では、秘密情報等に「別紙●●に列挙のもの・・・を含む」という文言を入れることで、特に秘密情報等として保護すべきものが(別紙に列挙することで)秘密情報等の範囲から漏れることを防止できる立て付けにしている。
  • さらに、本モデル契約では、「本契約締結の前後にかかわらず」の文言を入れることで、締結前の秘密情報も保護の対象となることを明らかにしている。

12条(成果の公表)

第12条 甲および乙は、第11条で規定する秘密保持義務を遵守した上で、本研究開始の事実として、別紙●●に定める内容を開示、発表または公開することができる。

2 甲および乙は、第11条で規定する秘密保持義務および次項の規定を遵守した上で、本研究の成果を開示、発表または公開すること(以下「成果の公表等」という。)ができる。

3 前項の場合、甲または乙(以下「公表希望当事者」という。)は、成果の公表等を行おうとする日の30日前までに本研究の成果を書面にて相手方に通知し、甲および乙は協議により当該成果の公表等の内容および方法を決定する。

<ポイント>

  • 共同研究開発の開始および成果の公表の手続きについて定める規定である。

<解説>

  • まず、共同研究開発を開始した事実については、契約締結の時点で具体的な公表内容を合意し、それを記載した別紙を契約書に添付しておくことが望ましい。
  • 共同研究開発の成果の公表については、秘密保持義務を遵守することはもちろん、成果について事前通知の上、公表内容について協議を行うべきこととした。
  • スタートアップは、資金調達などの観点からピッチイベントなどを行うことが多い。このようなピッチイベントにおいて研究の開始や成果についてプレゼンすることも本条の「公表」に該当するため、本条の手続きに則って進める必要がある。

13条(第三者との競合開発の禁止)

第13条 甲および乙は、本契約の期間中、相手方の文書による事前の同意を得ることなく、本製品と同一または類似の製品(本素材を配合した樹脂組成物からなる自動車用のライトカバーを含む。)について、本研究以外に独自に研究開発をしてはならず、かつ、第三者と共同開発をし、または第三者に開発を委託し、もしくは第三者から開発を受託してはならない。

<ポイント>

  • いわゆる競業避止義務を定める条項であり、具体的には、本モデル契約の期間中の第三者との競合開発を禁止する規定である。

<解説>

  • 本モデル契約の期間中に、競業他社とも類似の共同研究開発がされ、そちらで成果物を特許出願されてしまうリスクがあるため、本条を定めることは重要である。

【コラム】競業避止の範囲

  • 競業避止の範囲について、本モデル契約では「本製品と同一または類似の製品」としているが、「本研究と同一または類似のテーマ」などと定められることもある。
  • 「本製品」や「本研究のテーマ」の定義が曖昧であると、広汎な研究領域が競業避止の名の下に禁止されてしまい、当事者によっては大きなリスクとなる。他方、「本製品」や「本研究のテーマ」の定義が狭すぎると、本来禁止したい領域が禁止できないというリスクが生じる。
  • 競業避止義務違反に関する紛争においては、上記の「類似」の範囲が問題となることが多い。したがって、別紙等で「類似」の範囲をより具体的に定める(「①○○、②△△、③□□を全て備える製品は本製品と類似しているものとする」など)ことも検討すべきである。
  • さらに、禁止の範囲を「類似」(技術的に近似していること)に限定すべきかという論点もある。たとえば、技術的には異なっていても、同じ市場にあり競合する製品(例:白熱電球とLED)も競合避止の範囲に含めるべきか、という問題である。

14条(第三者との間の紛争)

第14条 本研究に起因して、第三者との間で権利侵害(知的財産権侵害を含む。)および製造物責任その他の紛争が生じたときは、甲および乙は協力して処理解決を図るものとする。

2 甲および乙は、第三者との間で前項に定める紛争を認識した場合には速やかに他方に通知するものとする。

3 第1項の紛争処理に要する費用の負担は以下のとおりとする。

① 紛争の原因が、専ら一方当事者に起因し、他方当事者に過失が認められない場合は当該一方当事者の負担とする。

② 紛争が当事者双方の過失に基づくときは、その程度により甲乙協議の上その負担割合を定める。

③ 上記各号のいずれにも該当しない場合、甲乙協議の上その負担割合を定める。

<ポイント>

  • 研究開発時に起こりうる第三者との主なトラブルは、知的財産権等の権利の侵害または製造物責任に関するものである。本条はこのようなトラブルが発生した場合の両当事者の責任と費用負担について定めた規定である。

<解説>

  • 開発委託の場合には、開発者側に、成果物が第三者の知的財産権を侵害しないことの表明保証を求める場合も少なくないが、本件は両当事者の知見を合わせて成果物の創出に向けて取り組む共同研究開発であるから、第三者の知的財産権の侵害が発覚した場合には、両者協力して処理解決することとし、紛争を認識した場合は他方に速やかに通知することとしている。
  • 責任と費用は、紛争の原因がある当事者の負担とし、当事者双方の過失による場合には過失の度合いにより協議の上負担する旨規定している。

15条(権利義務譲渡の禁止)

第15条 甲および乙は、互いに相手方の事前の書面による同意なくして、本契約上の地位を第三者に承継させ、または本契約から生じる権利義務の全部もしくは一部を第三者に譲渡し、引き受けさせ、もしくは担保に供してはならない。

16条(解除)

第16条 甲または乙は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。

① 本契約の条項について重大な違反を犯した場合

③ 支払いの停止があった場合、または競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立てがあった場合

④ 手形交換所の取引停止処分を受けた場合

⑤ 本単独発明または本発明に関する知的財産権の有効性を争った場合

⑥ その他前各号に準ずるような本契約を継続し難い重大な事由が発生した場合

⑦ 甲または乙は、相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めてなした催告後も、相手方の債務不履行が是正されない場合は、本契約の全部または一部を解除することができる。

<ポイント>

  • 契約解除に関する一般的な規定である。
  • 4号においては、ライセンス対象となっている本発明に関する知的財産権およびライセンス対象となりうる本単独発明に関する知的財産権の有効性を争った場合には、本モデル契約を解除できることとしている(いわゆる不争条項)。

<解説>

  • 以下のように、いわゆるチェンジオブコントロール(COC)が解除事由として定められることがある。しかし、そうすると、M&Aが解除事由となりかねず、上場審査やデューデリジェンスにおいてリスクと評価され得る。
  • したがって、スタートアップとしては、解除事由にCOCが含まれている場合、それによる支障を説明し、削除を求めることを検討すべきである。

【解除事由として定められるCOCの例】

他の法人と合併、企業提携あるいは持ち株の大幅な変動により、経営権が実質的に第三者に移動したと認められた場合

17条(期間)

第17条 本契約の有効期限は本契約締結日から1年間とする。本契約は、当初期間や更新期間の満了する60日前までにいずれかの当事者が更新しない旨を書面で通知しない限り、さらに1年間、同条件で自動的に更新される。

2 乙は、本研究が技術的に見て成功する可能性が低いと合理的に判断されるまたは事業環境が変化し本研究の事業化が困難であると合理的に判断される等の合理的理由がない限り、前項に定める更新を拒絶することができない。

<ポイント>

  • 契約の有効期間を定めた一般的条項である。

<解説>

  • 共同研究開発契約の有効期間は、「1年間」などの具体的な期間を定めるケースや開発の進捗を終了条件として定めるケースなどがあるが、いずれのケースにおいても契約の終了時期が明確に分かることが重要である。
  • 本条2項は、事業会社が更新を拒絶できる場合を、本研究の成功や事業化が困難と判断されるような合理的理由がある場合に限定している。事業会社との共同研究開発が継続していることが、スタートアップの資金調達におけるVC側の考慮要素となり得るため、事業会社側からの合理性のない更新拒絶を防止する趣旨である。
  • このような「合理的理由」は、様々なものが考えられるため契約締結時点で一義的に定めることは困難である。もっとも、研究テーマによっては更新拒絶を可能とすべき具体的な数値基準を定めることもできよう。当事者間のトラブルを避ける観点からは、可能であれば、そのような具体的な基準を定めておく方が望ましい。

18条(存続条項)

第18条 本契約が期間満了または解除により終了した場合であっても第7条(知的財産権等の帰属および成果物の利用)ないし第12条(成果の公表)、第14条(第三者との間の紛争)、19条(損害賠償)、第20条(通知)、第21条(準拠法および紛争解決手続き)および第22条(協議解決)の定めは有効に存続する。

<ポイント>

  • 契約終了後も効力が存続すべき条項に関する一般的規定である。

19条(損害賠償)

第19条 甲および乙は、本契約の履行に関し、相手方が契約上の義務に違反しまたは違反するおそれがある場合、相手方に対し、当該違反行為の停止または予防および原状回復の請求とともに損害賠償を請求することができる。

<ポイント>

  • 契約違反が生じた場合に違反行為の停止等および損害賠償請求ができることを規定している条項である。

<解説>

  • 損害賠償責任の範囲・金額・請求期間は、本研究の内容やコストの負担、委託料の額等を考慮してスタートアップと事業会社の合意により決められる。例えば、損害賠償額の上限を、研究成果に対する報酬の総額とすることが考えられる。
  • 本研究は、損害立証が困難な秘密情報を取り扱うものであり、かつ、収益性が不明確な研究開発段階の契約であることから、本条では、損害賠償請求だけでなく違反行為の停止または予防および原状回復の請求が行えることとしている。具体的には、特定の行為を求める仮処分や訴訟手続きなどを行うこととなる。

20条(通知)

第20条 本契約に基づく他の当事者に対する通知は、本契約に別段の規定がない限り、すべて、他方当事者に書面または各種記録媒体(半導体記録媒体、光記録媒体および磁気記録媒体を含むが、これらに限らない。)を直接交付し、郵便を送付し、または他方当事者が予め了承する電子メールもしくはメッセージングアプリを利用して電磁的記録を送信することにより行うものとする。

<ポイント>

  • 本モデル契約における通知方法の原則を定めた規定である。書面だけでなくUSBメモリなどの媒体によるやり取りも可能とし、また、郵便やファックスに加え、相手方が了承すれば電子メールやメッセージングアプリでの通知も認める規定としている。

21条(準拠法および紛争解決手続き)

第21条 本契約に関する紛争については、日本国法を準拠法とし、●地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

<ポイント>

  • 準拠法および紛争解決手続きに関してとして裁判管轄を定める条項である。

<解説>

  • クロスボーダーの取引も想定し、準拠法を定めている。
  • 紛争解決手段については、上記のように裁判手続きでの解決を前提に裁判管轄を定める他、各種仲裁によるとする場合がある。

【変更オプション1 ― 知財調停】

第21条 本契約に関する知的財産権についての紛争については、日本国法を準拠法とし、まず[東京・大阪]地方裁判所における知財調停の申立てをしなければならない。

2 前項に定める知財調停が不成立となった場合、前項に定める地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

3 第1項に定める紛争を除く本契約に関する紛争については、日本国法を準拠法とし、第1項に定める地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

<解説>

  • 紛争解決手段について、どの裁判管轄ないし紛争解決手段が適切かは一概には決められず、当事者の話し合いで決定するのが望ましい。話し合いによる解決を目指す場合、東京地方裁判所および大阪地方裁判所において創設された知財調停を利用することが考えられる。
  • 「知財調停」は、ビジネスの過程で生じた知的財産権をめぐる紛争を取り扱う制度であり、仲裁手続き同様、非公開・迅速などのメリットがあるだけでなく、専門的知見を有する調停委員会の助言や見解に基づく解決を行うことができ、当事者間の交渉の進展・円滑化を図ることができるというメリットがある。
  • 運用面では、原則として、3回程度の期日内で調停委員会の見解を口頭で開示することにより、迅速な紛争解決の実現を目指すとされており、迅速に解決でき、コストや負担を軽減できる可能性がある。
  • 知財調停を利用するためには、東京地方裁判所または大阪地方裁判所いずれかを,合意により調停事件の管轄裁判所とする必要がある。
  • 知財調停は、当事者双方が話合いによる解決を図る制度であるため、当事者が合意できず調停不成立となった場合は、訴訟等の手続きにより別途紛争解決が図られることとなる。
  • また、仲裁手続きは、裁判と比べて非公開・迅速などのメリットもあることから、スタートアップのような事案では、本条に変えて下記のような仲裁条項に変えるという選択肢もある。

【変更オプション2 - 仲裁】

本契約に関する一切の紛争については、日本国法を準拠法とし、(仲裁機関名)の仲裁規則に従って、(都市名)において仲裁により終局的に解決されるものとする。

<ポイント>

  • 紛争解決手続きとして仲裁を指定する条項である。

<解説>

  • 仲裁手続きは、裁判と比べて非公開・迅速などのメリットもあることから、スタートアップのような事案では、本条に変えて仲裁条項に変えるという選択肢もある。

22条(協議解決)

第22条 本契約に定めのない事項または疑義が生じた事項については、甲乙誠実に協議の上解決する。

その他のオプション条項

協議会の設置

1 甲および乙は、本研究の効率化および甲乙間の合意形成を容易にするため、甲乙各々から選ばれた委員からなる協議会を設ける。

2 甲および乙は、自らが選任した協議会の委員の変更・追加・削減を行う場合は、その変更・追加・削減に関わる委員の名前と共にその旨を相手方当事者に連絡する。

3 協議会での決定は、全委員の合意により行われる。協議会において全委員の合意が得られず決定ができなかった問題は、甲および乙の最高責任者間の協議により決められる。

4 協議会は、次の事項について決定を行う。

(1)本研究の具体的な遂行方法

(2)各当事者への担当業務の進捗状況

(3)本研究の遂行方法またはスケジュールの変更

(4)本研究が事業化した際の当事者の権利

(5)本研究の内容変更または中止

(6)その他協議会が定める事項

5 甲および乙は、本契約の目的を達成するために、定期的に(少なくとも3ヵ月に1回)または必要に応じて、協議会を開催して、甲および乙が行う本研究の成果の報告を受けると共に、前項に挙げられた事項について協議決定する。

6 協議会の議事は、その都度、議事録その他の書面により合意する。

7 第3項によっても協議が調わない場合、各当事者は、書面によって相手方に相当期間を定めて通知することにより、本契約を将来に向かって解除することができる。この場合、両当事者は当該解除までの担当業務の報告を行う。

<ポイント>

  • 当事者同士の協業を円滑にするために、情報交換や進捗方法の調整を行うための会議の開催について定める規定である。

<解説>

  • オープンイノベーションにあたっては、慎重に進めたい事業会社側のスピード感と手元資金が尽きるまでの限られた期間の中で迅速に進めたいスタートアップ側のスピード感が合わず、アライアンスがうまくいかないケースが少なくない。
  • この課題を解決するために、協議会への出席者について、(特に事業会社側において)本研究について一定の決裁権をもったメンバーを入れることを義務化することも考えられる。