TDEX ホワイトペーパー | バージョン 1.1 | 2022 年 6 月
摘要: TDEX(True DEX)は、Liquid ネットワーク上に構築された初のアトミックスワップベースのプライバシー優先分散型取引所(DEX)プロジェクトです。コミュニティ指向のオープンソースプロジェクトとして、ビットコインユーザーが利用できる高速かつ安全なサイバースペース用フレームワーク、さらにはリキッドアセットの流通市場となることを狙いとしています。そうすることで、TDEX はビットコインのセキュリティを活用しながらもプライバシーとファンジビリティの欠点を大幅に緩和することで、リキッドアセットの生成を保護し、トラストレスファイナンスの基盤を固めています。このホワイトペーパーでは、このプロジェクトのエコシステムと、手引きとして息づく根底のビジョンについて説明します。
人類の進化には技術革新が大きな要となっており、多くの場合、技術革新のお陰で生活が保護されたり改善されたりしています。テクノロジーは、その計り知れない重大性を考慮すれば、すべての人が平等かつ適度に使用できることが理想的であると言えるでしょうが、私たちは未だそのレベルに到達していません。
金融分野に注目した場合、フィンテックの革新によって、まぎれもなく、全体的なエンドユーザーエクスペリエンスが大幅に強化されたと言えるでしょう。ワンタッチペイメント、デジタルパスブック、e-KYC などが革新の例として挙げられます。しかし、獲得された使いやすさによって使用方法が拡大するはずですが、従来の金融システムは銀行口座を持たない世界の約 17 億人の成人を構造的に除外してきたのが現実です。
一方で、プライバシーもひどく侵害されています。政府機関や営利企業は、ユーザーのオンライン活動を詮索するだけでなく、個人データを乱用して監視、検閲、宣伝を行っています。間違いなく、これはユーザーの非常に基本的な権利の侵害に相当すると言ってよいでしょう。
これは主に、銀行、政府、代理店、ブローカーなど、複数の仲介者が関与したことが直接的な原因となっています。これらの仲介者は監督者または「トラスト」として機能し、その過程で、中心管理点として出現しています。
2008 年、サトシ・ナカモトは、一元化された管理エンティティによる制御ではなく、ユーザーによる制御を回復するという意味で、ユーザー指向の 4 つの勢力的テクノロジーとして、ブロックチェーン、暗号化、プルーフ・オブ・ワーク、およびピアツーピアの 4 つを紹介したビットコインホワイトペーパーを発表しました。この革新により、完全に分散化されたエコシステム内で安全なピアツーピアの金銭取引を行える新しい経済パラダイムが促進されました。信頼ベースのモデルを使用せずに二重支払の問題に取り組むことにより、サトシはプロセスからサードパーティの仲介者を効果的に排除し、それらをコンピューター化されたアルゴリズムに置き換えたのです。
とは言うものの、ビットコインは健全なお金と価値の保存に関するすべての機能を備えているにもかかわらず、骨格上、プライバシーとファンジビリティの保証を満たしてはいません。言い換えると、ビットコイントランザクションは匿名性ではなく偽名性が備わっており、ファンジビリティにはチェーン分析などの課題があります。さらに、最適なセキュリティとリジリエンスを得るために、ビットコインのコアは本質的にスケーラビリティを妥協しており、複数のビットコインベースのソリューションと機能性に不足している点があります。このホワイトペーパーの後の方で、Liquid サイドチェーンがビットコインの Layer-1 を使ってこれらの問題をどのように解消しているのかについて説明します。
過去 10 年間で、コミュニティは過密状態となり、暗号資産でほぼ飽和状態になっています。破壊的な保証に支えられ、こういった資産への人気は急速に高まりました。それでも、詐欺、ハッキング、およびプロジェクトの失敗によって導かれた莫大な損失を考えると、この取り組みの大部分がコミュニティの長期的な進歩に実際に貢献しているかどうかを批判的に調べる必要があります。さらに重要なことに、この分野の基本原則の観点から、この取り組みはどのように進んでいるのでしょうか?
保管取引所。TDEX の当面の目的との一貫性を保つため、中央集権型取引所を例に見てみましょう。これは、ほとんどの暗号資産を操作するための現在の主要ゲートウェイです。ほとんどの取引所プラットフォームは、規制上の義務を果たし、流動性を確保するために、保管形式を採用しています。ユーザーの資金と取引所がホストするウォレットの秘密鍵を管理するのは取引所です。
保管取引所の大半は単一のエンティティによって所有、管理、および統制されていますが、資金とデータは中央の一元化されたサーバーに保管されています。そのため、こういった取引所で取引するには、単一の障害点となるサイロ化されたサーバーを操作する必要があり、したがってセキュリティやプライバシーの侵害、検閲、さらには資金の損失に関する高いリスクが伴います。
分散型取引所。保管取引所に代わる取引所として、複数の分散型取引所が台頭しました。一般的に、自動マーケットメーカーまたは AMM として知られる、アルゴリズム式のマーケットメーカープロトコルを実装し、サードパーティによる干渉を得ずに、需要と共有のメトリクスを通じて価格を決定しています。ただし、固有の欠点もあり、中でもこのホワイトペーパーの主旨から言えば、スケーラビリティに関する懸念が最も関連性の高い欠点として挙げられます。
基盤となるブロックチェーンとスマートコントラクトの実装の欠点もあり、DEX の大部分はスケーラブルではないため、ネットワークが混雑している期間には非常に高いトランザクション手数料が発生します。現在の形式では、DEX の人気が高まるにつれ、DEX のコストも無限に高まってしまいます。さらに、業界に共通する危険として発覚したスマートコントラクトのバグにより、ユーザーはハッキングや侵害からの莫大な損失を被ることになりました。
SevenLabs より始まった TDEX は、Liquid ネットワーク上に構築されたコミュニティ指向の Elements ベース分散型取引所です。Bitcoin-Liquid フレームワークのセキュリティ、ユーザビリティ、およびスピードを活用し、TDEX は、リキッドアセット(L 資本)での高速で安全な、真に分散化された取引体験を想定しています。
根底にある TSWAP プロトコルはアトミックスワップを実装し、複数の「0 対 1」インセンティブを通じて流動性の問題を解決します。TDEX はまた、マーケットメイク戦略を選択できるようにすることで、流動性プロバイダーに力を与えています。一方、トレーダーは、競争力のある料金、より速い決済、より低いスリッページ、およびより優れたセキュリティというメリットを得ることができます。
以降のセクションでは、TDEX プロジェクトの背景と前景の要素について説明します。その過程で、プロトコルがトラストレスファイナンスのバックボーンネットワークとしてどのように出現し、プロのトレーダーやビジネスオーナーがプライバシーを優先する環境内で管理、取引、投資できるようにするかに焦点を当てます。
Elements ベースのコアを活用する TDEX は、Liquid ネットワーク上にデプロイされています。ビットコインのサイドチェーンとして、Liquid はビットコインのセキュリティを継承して強化する一方で、プライバシー、ファンジビリティ、およびスケーラビリティの側面を改善しています。このセグメントでは、Liquid を TDEX のフレームワークとして採用する根拠を説明します。
前述の分散型取引所の危機を効果的に解決するために、TDEX は包括的な 2 つの要素からなるソリューションを想定しています。一方ではコミュニティのもつ原始的な懸念を一部解決する必要があります。レイテンシー、不適切なプライバシー、およびファンジビリティへの脅威といった懸念です。もう一方では、オープンファイナンシャルソリューションの視野を広げ、ビットコインのコアと比べてより新しい機能性を有効化する必要があります。言い換えると、TDEX は、ビットコインの Layer-1 の目的を多様化しようとしており、まさにこの点で、Layer-2 ビットコインサイドチェーンである Liquid のビジョンに合致しているのです。
Liquid ホワイトペーパーの著者が的確に指摘しているように、「暗号通貨トレーダーのハイスピードな世界において、トランザクション手数料、決済時間の変動、公にブロードキャストされるトランザクション、およびチェーン再編成のリスクにより、トランザクションアクティビティの間に多大なコストが発生する可能性があります。」
すぐ後に説明するネットワークのビザンチン・フォールト・トレラント(BFT)コンセンサスとは別に、Confidential Transactions や Asset Issuance などの実装は、TDEX の目的に最も関連性のあるものとして出現しました。
簡単に言うと、Liquid は、世界的・文化的に分散された一連の「functionary」によって保護されたペグインペグアウトメカニズムで動作し、集合的にバリデーターの「Strong Federation」を形成しています。これらのファンクショナリーが成果を得るために関与できるように、プロトコルはトランザクション、ブローカーなど、ビットコインネットワークの安定性と進展を保証する意欲を多大に持ったエンティティである必要があります。このフェデレーションは、不正なフォークとトランザクションを制限するためにアルゴリズムのロジックを強制する「鍵モジュール」を使って、Liquid 上のブロック、トランザクション、およびペグに署名します。さらに、基盤の BFT コンセンサスはラウンドロビン式の 3 段階コミットスキームを実装しているため、チェーン再編成のリスクを伴うことなく、毎分ごとにブロックが署名されます。
ビットコインの PoW コンセンサスのランダムなポワソン分布とは逆に、Liquid の 連合型双方向ペグは、トランザクションのレイテンシーの大幅な改善を意味します。代わりに、TDEX ネットワークでほぼリアルタイムの取引とトランザクション決済(2 分未満)を実現しながら、フェデレーションは互いに信頼性のない参加者で構成されているため、プロトコルの分散化が維持されます。さらに、Liquid は閾値ベクトルを採用し、n は functionary の総数、k はブロックが有効とみなされるために必要な署名の最低数を表します。すべての functionary には適切に同期されたクロックが必要であるという欠点にもかかわらず、このベクトルによってネットワークの安全性とライブ状態の両方が確保されるため、最終的には、TDEX のより優れた安全性とアップタイムが保証されることになります。
TDEX を開発する過程において、プライバシーが基本的な人権であるという認識が大多数の選択肢の基盤として浮上しました。ビットコインの公開台帳は、各トランザクションを直接送金者にリンク付けることなく記録しており、明らかにプライバシーは十分のようです。しかし、より詳しく見てみると、偽名性はユーザーの自律性を保証するには大いに不足しているのがわかります。たとえば、ある公開鍵に関連するチェーン分析とトランザクション履歴のトレースを行うと、ユーザーの偽名性は実質的に否定されるでしょう。さらに、過程において明らかになるパターンも 正当なコインと不正なコインの分類に使用される可能性もあり、ファンジビリティを脅かしてしまいます。こういった問題を解決するソリューションは現在開発中で、TDEX の実装もこれに含まれています。
プライバシーは単なる秘匿性ではなく、ユーザーが自身の特定の情報を明らかにするのかどうか、またいつ明らかにするのかを制御することを意味することに注意する必要があります。この観点から言えば、Liquid はビットコインのプライバシー基準を強化しているため、この道のりは TDEX の進む道と交差すると言えます。
準同型コミットメント、ディフィー・ヘルマン鍵共有、および範囲証明 など、Liquid は数量とアセットタイプを見えなくする「Confidential Transactions(コンフィデンシャルトランザクション)」を実現しています。言い換えると、取引されるアセットの数量と種類は、他の値を使って解読したり(開いたり)、コミットメントによって判定したりできないように暗号化されます。未使用のトランザクション出力(UTXO)モデルを前提とした場合、この手法では、_ 合計入力 = 合計出力 _、つまりその過程でインフレ、破壊、または二重支払がなかったことを証明することで、トランザクションの妥当性を証明します。さらに、ネットワークは Asset Surjection Proof(ASP)という、簡単に言えば「アセットタグ」が使用済みアセットにコミットされているがどれかを明確にしないゼロ知識証明の形態を利用しています。
Liquid のマシンの主要な歯車として、Confidential Transactions は Blinding Key、つまり秘密鍵と公開鍵のペアを使用した非対称暗号化を採用しています。この様々な結果の中で、鍵共有プロセス中に傍受されるリスクを最小限に抑えられるため、トランザクションを最適に非公開化し、検閲耐性が備えられます。簡単に言うと、このプロセスは次のようにまとめられます。
- アセット所有者(送信者)を「花子さん」とした場合、花子さんは目的としたトランザクションの公開アドレスをブロードキャストします(スワップ)。もちろん、これはネットワーク全体で閲覧が可能となります。
- 関心のある受信者を「太郎さん」とした場合、太郎さんはパブリックブラインドキーを花子さんと共有するアドレスに暗号化します。TSWAP の場合であれば、この共有は暗号化されたメッセージングプロトコルで発生するため、セキュリティが確保されるだけでなく、両者がトランザクションに関わる UTXO を確認することが可能となります。
- 花子さんはメッセージを受信すると、トランザクションをブラインド化し、太郎さんの公開アドレスを使って暗号化します。太郎さん(受信者)はこのトランザクションに関連付けられた秘密鍵の唯一の所有者であるため、ブロックチェーンに記録された後でトランザクションを解読できるのは太郎さんのみとなります。花子さんでも解読できません。
この結果、ネットワークはブランケット「トランスパレンシー」があまり好ましくないこういった取引のニーズを解決します。たとえば、Confidential Transactions は、分散され、確認可能な方法で事業が財務プロセスを実施できるようにする一方で、機密情報が公開されないように保護することができます。同様に、この原理によって、財政などの他の関連セクターでのビットコイン採用の推進力が強化されます。
Liquid ネットワークの分散化ソリューションの出現、または Blockstream の最高経営責任者 Adam Back が言うリキッドファイナンスもしくは LiFi は、最近多大な力をつけてきています。 それに伴い、ネットワークでは、特にリキッドアセットの形態で、右肩上がりの価値が生み出されています。一方で TDEXは、さらなるイノベーションを促進するためのオープンソースツールキットであるだけでなく、コミュニティで高まりを見せている、これらのアセットの分散型流通市場に対する需要に対応するよう努めています。
前のセクションでは、TDEX のフレームワークとそのいくつかの重要な選択肢の根拠について説明しました。ここでは、プロトコルと実装の概要を提示し、プロトコルのエコシステムをさらに詳しく説明します。
TDEX の中核には、Message、Transport、Swap、および Trade の 4 つのプロトコルがあります。これについてはこのセグメントで説明しますが、これに関し、ホワイトペーパーでは完全な技術面の説明は致しません。それについては、技術ドキュメントの「 TDEX Specifications(TDEX の仕様)」をご覧ください。
TDEX の分散型ネットワークに対する基本的な、いわゆる原始的要件は、取引関係者同士をつなぐ安全な双方向メッセージングチャンネルです。このような接続は、信頼性と安定性を備え、ピアツーピア(P2P)で、何よりもプライバシー優先である必要があります。TDEX は Liquid を利用することで、これらの機密通信の要件を満たしています。さらに、これらのメッセージをシリアル化するために、TDEX は Google の Protocol Buffers という、構造化データをシリアル化するにおいてプラットフォームと言語にとらわれない手法を実装しています。
ネットワークでトランザクションを行うために、デーモン(ユーザー)は P2P トランスポートチャンネルを必要としますが、機密性と安全性に対するニーズはメッセージプロトコルと変わりません。これに関し、TDEX は、ユーザーが個別または組み合わせて使用できる、クリアテキスト(非安全)、 Onion Service(onion)、Server-Side TLS(TLS)、Mutual TLS(mTLS)、および Noise_XK_secp256k1_ChaChaPoly_SHA256(noise)といった多様なプライバシーオプションを提供しています。TDEX ネットワークに参加する際、ユーザーは実装しているトランスポートチャンネルを宣言する必要があります。
TSWAP プロトコルは、ネットワークのピアが署名付きのメッセージとトランザクションを共有できるようにする、安全なアトミックスワップベースの実装です。Proposer と Responder のブリッジの役割を持つ TSWAP は、TDEX エコシステムの非常に重要な要素です。前述のメッセージとトランスポートプロトコルを利用することで、TSWAP には主に次の 4 つの二次要素があります。
- SwapRequest: **** プロポーザー** **がスワップを開始。
- SwapAccept: レスポンダーがリクエストを受諾。
- SwapComplete: プロポーザーが安全な接続を確認。
- SwapFail: いずれかがスワップが失敗して完了したことを通知。将来的には、failure_code という、失敗の理由を示す要素が追加実装される可能性があります。
ほぼ間違いなく TDEX の最も重要な実装と言える Trade プロトコルは、前述のすべての BOTD を組み合わせて非保管式取引所のパブリックインターフェースを定義します。保管式取引所のオーダーブックモデルとは逆に、このプロトコルではトレーダーとマーケットメーカーがアトミックスワップを使って直接接続することができます。
後のセクションで、ユーザーと流動性プロバイダーのエコシステムを説明しますが、現時点では、マーケットメーカーは常時接続デーモンであり、Base-Quote アセットペアに比例流動性を提供すると言っておけば良いでしょう。将来的には、TDEX は Simplicity ベースのコントラクトを採用して、プラットフォームのセキュリティとプライバシーをさらに強化しながら、より幅広い機能を有効化すると考えられます。
TDEX ネットワークでは、マーケットメーカーは交換で取引されるアセットペアに流動性を与えるエンティティであるため、流動性プロバイダー(プロバイダー)とも呼ばれています。プロバイダーの主な機能は、Quote Asset(quote_asset)と Base Asset(base_asset)の相互ペグペアを維持することです。ただし、これはビットコインのペグに限らず、すべてのアセットペアに適用されることに注意してください。
従来の欲望の二重の一致という問題に対するソリューションとして、TDEX は、マーケットメーカーが常時接続エンドポイントを実行できる一方で、BOTD #2 で定義されたいずれかのチャンネルで誰もがアクセスできるアドレスを明らかにすることができます。このため、トレーダーはすぐにマーケットを使用することができるため、分散型取引所の主な痛点の 1 つを解消することができます。
プロバイダーとして参加するには、デーモンを Docker で実行するかスタンドアロンのエンティティとして実行することで、デーモンをネットワークに実装する必要があります(Daemon Implementation Procedure(デーモンの実装手順)をお読みください)。TDEX の標準的なデーモンは、Trader Interface(パブリック)と Operator Interface(プライベート)の 2 つの HTTP/2 gRPC エンドポイントを公開します。パブリックインターフェースはトレーダー向けのポート(デフォルト: 9945)を表し、プライベートインターフェース(デフォルト: 9000)はマーケットメーカーの内部トランザクションに使用されます。さらに、最適なセキュリティを得るために、各デーモンには Blockstream Green または Liquid Wallet が事前に組み込まれています。
TDEX の差別要素の 1 つは、プロバイダーに複数のマーケットメイクオプションが提供されているため、範囲を大幅に広げられるところにあります。言い換えると、TDEX では、戦略を押し付けるのではなく、マーケットメーカーが戦略を選択または作ることができるのです。
アセットの価格を特定するために、プロトコルはデフォルトで、Constant Function Market-Making(CFMM)戦略を採用しますが、マーケットメーカーには、カスタム API を使って プラグ可能な(外部の)価格フィードを実装するオプションもあります。TDEX の成功には事業の関与が重要であることを考えると、カスタムマーケットメイク戦略は、特にユーザー選択ロジックを同時に支持するため、プラットフォームの最も重要な機能の 1 つです。言い換えると、プロバイダーには価格戦略を選択するオプションが与えられていますが、プラットフォームのソブリントレーダーは、これらの戦略を選択または拒否することができます。
base_asset-quote_asset の準備率は取引ごとに変化しますが、TDEX はすべての取引に最小限のスワップ手数料を課し、それを準備金に追加することで、市場規模全体の一貫性を確保しています。裁定取引によって一貫したトランザクションフローが促進されることを考慮すると、マーケットメーカーが AMM ベースの戦略を実装した場合、手数料から生成される収益は時間の経過とともに増加するはずです。
ただし、同時に、TDEX は P2EP メカニズムを採用しているため、トランザクションに必要なブロックチェーンスペースが最小限に抑えられることから、関連する手数料が効果的に最適化されることになります。これは、公平性を確保し、プロトコルのトレーダーとプロバイダーのプレイグラウンドを平滑化するために行われます。
今後のロードマップにおいて、TDEX はアセットを相互に接続してプールできるよう、デーモンのフレームワークとして機能する非保管式機能を実装する予定です。これが達成されると、より優れて一貫性あるプロトコルの流動性を確保するだけでなく、ユーザーに有益となる単一エンドポイントの公開が実現します。一方で、TDEX は財政的要求に大規模に応えられるようになります。
そのため、プールを作成するプロバイダーはプールマスターとなり、他のプロバイダーはその分散サービスメッシュに参加して、流動性を集約できるようになります。プールマスターには、インセンティブとして、プールのアセットのベース価格を特定する能力が与えられ、トレーダーはプロバイダーが集約したスポット価格をルックアップすることが必要となります。ある特定のアセットに対し、プロバイダーは単独で実行するかプールに参加するかを選択できますが、同時に両方の立場を得ることはできません。
TDEX の文脈では、マーケットは、アトミックにスワップできる base asset と quote asset のあらゆるペアです。BOTD #3 で言及したように、Proposer が TDEX でスワップを開始し、あるいはネットワークのトレーダーとなることができます。言い換えると、TDEX のトレーダーは Trade プロトコル(BOTD #4)を完全に実装する任意のユーザーということです。こうすることで、前に説明したプロバイダーのデーモンのパブリックポートである Trader Interface と接続し、規定のマーケットレートで取引に合意します。
一般的に、TDEX での取引は他のあらゆるアトミックスワップベースの交換と似ており、トレーダーはペアの両方のアセットの同等の比率(市場価格)をスワップすることができます。ただし、他のネットワークの大半の取引所とは異なり、TDEX のフレームワークは、秘匿性、より素早い決済、および最小限以下のスリッページを保証しています。さらに、非保管式であることから、TDEX には、ハッキングや侵害による資金の損失に関する問題がありません。
このプロトコルでは、ユーザーは、デフォルトの UI のほか、TDEX のソフトウェア開発キット(SDK)を使ってカスタムクライアントを作成することができます。初期段階では、これは JavaScript を使って行えますが、将来的には Python、Go、および Rust 向けの SDK も用意される予定です。一方、初期段階では、将来的に分散化されたモバイルアプリケーション計画が実を結ぶまで、コマンドラインインターフェース(CLI)を使ってプロバイダーを操作することができます。
これらの SDK は、実質的に、TDEX によるネットワークのオープンソース機能への貢献そのものであり、主にビットコイン API 実装とその他の類似する機能性に精通した開発者を後押しする働きがあります。この点で、特にネットワーク上での流動性の生成を強化することを目的に、Liquid エコシステム内でイノベーションを推進することをより広いビジョンとしています。
ここまで、TDEX エコシステムの様々な要素について説明してきました。ここで、可能性のある代表的な使用例をいくつか見てみましょう。
一般的に、TDEX で交換されるアセットは本質的にリキッドアセットであることに留意しておく必要があります。したがって、L 資産の流通市場であることが、少なくとも初期段階においては、TDEX プラットフォームの主なユースケースの 1 つです。
簡単に言うと、Liquid では、トークン化された不換通貨およびその他の BTC 以外の暗号通貨、ノンファンジブルトークン(収集品)、インセンティブトークン(報酬)、トークン化された商品(金貨など)といった資産クラスにまたがる譲渡可能な資産を「発行」できます。各 L 資産には 64 文字の ID があり、Liquid 版の Block Explorer である Blockstream.info の「Asset Registry」にそのメタデータを公開することで、ブロックチェーンの人間が読み取れる領域に添付することができます。プロトコルでは再発行トークンとトークンバーンも許可されています。これは、TDEX の文脈では、プロバイダーが任意のペアの L 資産のマーケットを作成できるため、こういったアセットの取引が促進されるということです。同様に、NFT トランザクションと販売に利用することも可能です。
ただし、TDEX プロジェクトはコミュニティ指向であり、利益を生み出す動機を優先しないため、現時点では TDEX にはネイティブトークンがないという、TDEX の持つビジョンの重要な側面に注意する必要があります。
TDEX ネットワークのユーザーとマーケットメーカーは必ずしも個人である必要はなく、機関や事業であることも可能です。そのため、プラットフォームにはそういった組織が L 資産を取引するための安全な経路が用意されていますが、代わりに、長期的な採用の強化とコミュニティ拡大において決定的な役割を果たす義務があります。
これに加えて、TDEX のオープンソースツールキットは、小規模、中規模、大規模のビジネスが分散して財務ニーズを満たすカスタムソリューションをデプロイする可能性を確立することで、その範囲をさらに広げています。実際、この意味で、TDEX はトラストレスファイナンスの「バックボーンネットワーク」となる狙いを実現することがきるのです。
プライバシーとセキュリティに関する懸念は急激に膨れ上がっています。コンプライアンスの義務によって、さまざまな方面で中央集権型取引所は機能を損なう一方、分散型取引所はセキュリティを犠牲にして、横行するハッキング、詐欺、多様な侵害の餌食となっています。最終的に、こういった要因が組み合わさった結果、ユーザーは金銭またはデータを失っており、さらに重要なことに、プライバシーと自律性に関する基本的な権利を喪失しつつあります。
この状況を打破するために生み出された TDEX は、Liquid ネットワークにデプロイされるプライバシー優先の分散型プロトコルです。主にアトミックスワップベースの取引プロトコルとして、プラットフォームには、開発者がカスタム API やその他のソリューションをネットワークにデプロイするために使用できる、オープンソースのツールキットも用意されています。TDEX は全体として、Liquid ネットワークで分散型ソリューションを促進するためのバックボーンプロトコルとなり、代わりにビットコインユーザーやファンのグローバルコミュニティにとってセキュアで安全な実力主義空間としてトラストレスファイナンスの基礎を固めることを想定しています。
TDEXは、未来を築くための旅に乗り出すにおいて、様々な人や企業から刺激を受け、助言を受け、支援されてきました。それを無くしてこのプロジェクトを実現することはできなかったと思っています。これらの多くの貢献に対し、心よりお礼申し上げます。
そして誰よりも、サトシ・ナカモトに感謝の意を表します。