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給料―あなたの価値はまだ上がる/Fair Pay を読んだ

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@github-actions github-actions released this 27 Aug 14:42
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Reviewed by @azu #44

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給料―あなたの価値はまだ上がるを読んだ。

原著はFair Pay: How to Get a Raise, Close the Wage Gap, and Build Stronger Businessesという書籍。

日本語のタイトルは給与交渉の話(個人)に見えるけど、実際に面白かった部分は報酬哲学や公平な給与をどう実現するかという話(組織)だった感覚がある。
なので、読んだ後に原著がFair Payというタイトルだったのみて納得した。

給料はあなたの価値なのかと合わせて読むと面白い本だと思う。

透明性が上がると結果的に格差は減ることが知られているが、透明性だけでは説明力が足りないなーと前から思ってた。
この本ではそこに"誠意ある給与(Pay Sincerity)"という概念を出していた。この概念の話が良かった。

賃金を増加させた時の試算

アメリカで最低賃金を$15に上げるという運動があってその話から始まる。

このときに$1賃金を上げるとどういうコストがかかるかの計算式が面白かった。

2019年にはアメリカに約8500店舗を展開していたとあるので … スターバックスが、各バリスタの時給をきっかり1ドル上げるためには、以下のコストがかかる。
(1ドル)×(週25時間)×(年52週)×(バリスタ15 人)×(8500店舗)=1億6500万ドル

一方で、最低賃金に変動があったからといって失業率が上がったり、物価が上がったりはしないという話。
実際の$15の戦いでもそういう結果になっていた。

あとになってみれば、最低賃金に現代史上最大の変動があったにもかかわらず、(パンデミック前の)失業率は低下し、物価は暴騰せず、ロボットがあらゆる雇用増大を阻むこともなかった。

誠意ある給与(Pay Sincerity)

この書籍で一番興味深いところだったかも。

給料はあなたの価値なのかでは、給与の透明性があると給料の格差(ジェンダーや色々な問題による格差)が減るという話があった。
一方で、透明性という言葉は開示だけで終わることがあり、そこに説明責任までは含まれないので、ガラスの天井のような問題は透明性があっても存在はすることがある。

これに対して、透明性を包含してるような概念として誠意ある給与(Pay Sincerity)という話が出てきた。

誠意ある給与とは、公平で透明性のある給与をひたすら追求し、人間らしい生活に必要なものを提供して、人々が自分の貢献と潜在能力に充分な報酬を求められるようにする手段のことだ。
 理想的な誠意ある給与は、ブランド戦略のための試みや、1回試しただけで「完了」の印をつけて獲得できるような資格とはまったく違う。それは、企業が重要な給与情報の共有を歓迎し、時間をかけた改善と信頼構築に継続的で誠実な投資を行えるような環境をつくり、維持していく積極的な選択なのだ。会社の給与の支払いかたが間違っている、少なくとも給与決定が明確に伝えられていないと従業員が主張したときには、企業は忌憚のない対話の機会をもうけ、必要なら変更に応じなくてはならない。
 誠意ある給与は、給与の透明性を超えるものだ。給与の透明性とはたいてい、給与範囲や公正に支払われた給与の集計結果など、企業のブラックボックスから取り出した基本的な情報を、きれいに整えて一方的に開示することをいう。給与の透明性は重要で、本書でも頻繁に取り上げるが、改善のための説明責任を課しはしない。給与情報が公開されたなら、見つけた問題にどう対処するかを学ばなくてはならない。情報があれば、人は自分の意志でよりよい会社や役割を選べるのだから、自然によりよい決定がなされるはずだという考えかたがある。そんなに簡単ならいいのだが──情報が何を意味するのかや、給与制度自体がうまく機能していない場合どうすればそれを操作したり改善したりできるのかを理解するには、手助けをしてくれるガイドが必要になる。

なぜ「誠意」という言葉を使うのか? 

企業は、特に男女間や人種間の格差に対して、真剣に給与を評価することを意図的に避ける。なぜなら、評価作業をすれば法的に格差を見つけることが可能になり、賃金の問題が発覚した時点で変更しなければ責任を問われることを知っているからだ。しかし給与は、労働生活のなかで最もわかりやすく改善の余地がある部分なのだから、「尋ねない、言わない」という立場を受け入れてはいけない。

給与は一回きりの問題ではない(一度あげてそこで終わりではない)ため、継続的に話し合える環境そのものが大事だよねって話。
これ読んでいて、デュアルキャリア・カップルを思い出した。

デュアルキャリア・カップル――仕事と人生の3つの転換期を対話で乗り越えるでは、カップルの人生には次の3つの転換点があるという話が出てくる。

  • 第一の転換期──どうしたらうまくいく? 結婚数年後の転居や子供の誕生
  • 第二の転換期──ほんとうに望むものは何か? マンネリ化から生じる変化への衝動を感じる30代後半~40代
  • 第三の転換期──いまのわたしたちは何者なのか? 子供が巣立ち、仕事でもベテランとされる50代以降

第一の転換期は、子供 or キャリアチャンスで訪れることが多い。
このとき、短期的な経済基準で移住や離職などをすると片方の将来性に負荷がかかるため、経済バランスが崩れて戻すのが難しくなる。

復職しても37パーセントの収入減が待っている。子育ての真っ只中にいるときには、乳幼児期はひどく長いように感じられるが、40余年のキャリア全体からすればその割合はほんのわずかだ。一方、離職することによる経済的な損失の合計は生涯で100万ドル以上にのぼると、さまざまな研究で算出されている。
-- デュアルキャリア・カップル――仕事と人生の3つの転換期を対話で乗り越える

短期的に処理すると取り返しがつかないので、長期的な合意にいたるまで話し合い、大きなライフイベントに慎重に対応する。
そうすることで、第二の転換期まで二人でたどれる道をつくる。

この話と “理想的な誠意ある給与” の話が結構似てるなーと思った。

報酬哲学

わたしが思うに、報酬哲学を持つことのあまり目立たないが重要な理由は、企業が競合他社の給与決定にどう対応するかを公に示すことだ。これをはっきり口にする企業はないが、報酬哲学は、自由市場に参加する企業の意欲に制限を設ける。企業は給与で他社と競争することに戦略的なメリットを感じていないことを忘れてはならない。
 上場企業は、報酬哲学を公開している。あなたの会社が上場企業(つまり誰でも株式を買える)だとして、もし報酬哲学を公開していないのなら、この本をいったん置いて、「(あなたの会社名)proxy (直近の終了した年)」で検索してみよう。… 会社の報酬哲学が見つからなかったら、上司か人事部に訊いてみよう。こういう基本的なことさえ人事部に訊きづらいとすれば、転職を考え始めることをお勧めする

この報酬哲学の話面白かった
<会社名> Proxy <年数>で検索というやつで、Proxy Statementは日本だと株主総会招集のやつ。
これの取締役の報酬等の内容に係る決定方針あたりに書いてあるのでまず読んでみようねって話。

たとえば、株主総会招集 Yahoo - Google 検索で検索してみるとZ Holdingの2023年定時株主総会招集ご通知が出てくる

このPDFには”報酬ポリシー”という項目があって、ここに報酬哲学が書かれている。
大抵は役員報酬のポリシーになっている。

ここで、現存の報酬哲学すべてを要約してみる。会社の哲学をざっと読むと、表現は少し違うかもしれないが、次のような文章が見つかるだろう。「当社の報酬哲学は、戦略目標を達成するのに必要な人材を誘致し、つなぎ留めるために存在する」。

実際読むと大したことは書いてないんだけど、誠意ある給与(Pay Sincerity)を実現するには、これを公開するだけじゃなくて、知ってもらう状態にすることが大事という話が良かった。

他社のまねをして安全策を取るという現在のモデルでは、独創的な考え、進歩、説明責任という面から見て、多くのものを取りこぼしている。表現をくふうするうえで、企業によって多少の違いが出てくるだろうが、手始めとして、標準的なモデルを誠意ある給与を表す言葉と組み合わせてみた。
「当社の報酬哲学は、すべての従業員が生活に必要なものを手に入れ、公平で透明性のある給与の情報を得て、自らの貢献と潜在能力に対して充分な報酬を受け取れるようにすることによって、当社の戦略的目標を達成するのに必要な人材を誘致し、つなぎ留めるために存在する」。

法律が決まってるから公開されているんだろうけど、大体の人はそれすら知らないかもしれないので、知ってもらう状態になってより具体的な議論や行動が進む。

先ほども書かれていたけど誠意ある給与(Pay Sincerity)は一度きりのものじゃないので、継続的にやるにはトレーニングも必要という話があって、そのアイデアの話も面白かった。

全従業員を対象とした公正な給与のトレーニングプログラムをつくり、管理職や人事部用の上級モジュールも用意する。
・共通のガイドラインの範囲内で、必要に応じて管理職や人事部リーダーに給与を調整する権限を与える。
・給与範囲を公開し、従業員が自分の本当の同等集団と比べてどのくらいの位置にいるのかわかるようにする。
・賃金平等分析の数字だけでなく、賃金格差分析の結果も公表する。
・雇用方針や契約に含まれる時代遅れの(そしてたいていは違法な)給与の秘密保持条項を廃止する。
・社内の後援プログラムに、給与に関わる指導の責任を負わせる。
・ネットワークのセキュリティーホールを発見するためのチームと同じように、プロセスの偏りを根絶するための〝レッドチーム〟を編成する。
・差別や報復を心配する従業員のために、秘密にできる手段を用意する。
・厄介な倹約家の管理職を回避するために、中央での資金プール管理によって積極的に給与調整のための資金を調達する。

一度きりじゃないのは、維持しようと思って維持しないといつの間にか簡単に変化してしまうことがあるという理由がありそう。
たとえば、企業を買収した場合は大体はその企業が元々も持っていた給与体系を継承してしまうだろうし、給料はあなたの価値なのかでいうところの”模倣”や”惰性”が働くので、いつの間にか影響を受けてしまうことがある。

その辺の公正な給与のトレーニングを実際やってるところってどれぐらいあるのか気になる。

ノルウェー

ノルウェーは納税申告書が情報公開されているため、給与の透明性という視点での先行研究となってるケースが多くて面白かった。

ソフトウェアエンジニアの友人が、あるアイデアを持ってあなたのところへ来たとしよう。「給与のフェイスブック」のようなものを使うことに人々が興味を持つかどうか試してみたいらしい。… そして、他の人と比べて自分の仕事にどのくらいの価値があるのかがわかれば──つまり給与の完全な透明性があれば──賃金停滞と賃金格差というふたつの問題は解決すると思うだろうか?
 ノルウェーは、似たようなことを試した。そして、どちらの問題も解決しなかった。
少なくとも1882年以来、ノルウェーの納税申告書は情報公開されていた。2001年まで、ノルウェー人なら誰でも、地元の税務署を訪れて他人の公的な所得を見ることを正式に要請できた。2001年以降は、オンラインで検索できるデータベースが登場したことで手続きがとても簡単になり、給与をのぞき見するのに税務署まで寒い思いをして自転車で行く必要がなくなった。短期間だが、サードパーティーの開発者が、フェイスブックのようなサイトで、そういうデータベースからの情報をまとめて、友人たちの収入ランキングを作成することもできた。ピーク時には、それらのサイトはユーチューブよりも人気があり、ノルウェー人は天気よりも納税申告書を検索しているようだった。

現在は匿名では見れなくなったり、商用利用はできなくなったりとか色々制限が入ったので、完全に自由には見れなくなってる。

けど、この自由に見れた時期でも賃金格差は完全にはなくなるわけじゃないという話(でも他の国に比べると格差がだいぶ小さい)

OECDが収集したデータによると、ノルウェーの男女間の賃金格差は7%だ。

これは公開してるだけであるので、透明性があるだけの状態と言える。
誠意ある給与(Pay Sincerity)を実現するには、この透明性に加えて、公平な給与のためにはどういう修正が必要かという維持する体制も必要になるというのはこの辺から来てるのかなーと思った。

絶対値ではなく相対値の給与での満足

このノルウェーで面白かった研究。

ノルウェーの税制についての研究によると、給与が人間の基本的要求を満たすのに充分である場合、同等者と比較した場合の給与額のほうが、給与自体の額よりも満足度を高める重要な要因になることがわかった。簡単に言えば、同等者と見なした人たちより自分の給与が高ければ満足で、低ければ不満を感じるということだ。この研究では、経済的に恵まれていない家庭のほうが、恵まれている家庭よりも、収入の透明化に反対する傾向が強かった。未払いの請求書や叶わぬ夢への思いなど、自分が他人と比べてうまくいっていないことを毎日思い知らされていれば、みんなに自分の給与のことを訊かれたくはないだろう。

この研究が色々面白い。

同等者と比較した結果に対しての満足度があるという話は、給与交渉というアクションに繋げるときに、自分が同等者のどのレベルでどのぐらいの給与をもらうのが一般的かという自身の位置を把握することの重要さとも繋がってる。

もう一方の経済的に不利な立場であるほど、給与の透明化には反対する傾向が強いという話も面白い。
これは書籍の最後にも出てきてたアーティストの話ともなんか似ている気がする。

「アーティストは自分の収入額を、観客に対しては少なめに言うが、友人に対しては多めに言う傾向がある

質問することで改善する

情報の非対称が雇用主と従業員には発生するので、質問をしようという話が良かった。

複雑さは常に、権力を持つほうに有利だからだ。賢い質問をされれば簡単にするしかなくなり、明瞭性と透明性、そして公正さへ向かう道の基礎が築かれる。

この賢い質問というのが日本語訳のタイトルにきてるところなのかなー

原著はFair Pay: How to Get a Raise, Close the Wage Gap, and Build Stronger Businessesというタイトルで、自分が読んだ感想はどっちかというこのタイトルだった。

交渉

これからやってくる世界で、給与の透明性が高まるのは避けがたいことだ。その世界では、賃金格差も許されないだろう。グーグルやマイクロソフトなど、とりわけ給与の高い多くの企業の従業員は、自ら行動を起こし、密かに自分たちの給与明細を集めて公開している。この傾向は今後も続くはずだ。「Blind」のような匿名で給料情報の交換ができるアプリや、「Levels.fyi」、「Salary.com」、「Glassdoor」のような公開サイトは、当初はデータの質が低いので報酬の専門家には敬遠されていたが、かなり精度が上がっている。企業は、説明責任が増して給与に関するきびしい会話が求められる新しい常識を受け入れる必要がある。

具体的にどう交渉するのかという話が結構書かれてた。
簡潔にまとめると自分の位置を知る、質問するという話だったと思う。

この位置の見つけ方が具体的に色々書かれて面白かった。
企業ベースのものと個人の申告ベースのサイトの違いとか、最近はLevels.fyiとかもデータとしての信頼性がだいぶ上がってるんだなーとか。

日本でもそういうのは増えていってる。

要約すると、必要になるまでMVPの金額を教えてはならないということだ。

この辺の給与交渉のよくあるテクニック的な話もあった。
けど、そういうテクニック的な話の本として読むのはあんまり向いてない印象はある。

その交渉については4つの要素(Process/Permission/Priority/Power)があって、その戦略についても整理されている。