それは、稲妻のような切っ先だった。
心臓を串刺しにせんと繰り出される槍の穂先。
躱そうとする試みは無意味だろう。
それが稲妻である以上、人の目では捉えられない。
だが。
この身を貫こうとする稲妻は、
この身を救おうとする月光に弾かれた。
しゃらん、という華麗な音。
否。目前に降り立った音は、真実鉄よりも重い。
およそ華やかさとは無縁であり、纏った鎧の無骨さは凍てついた夜気そのものだ。
華美な響きなど有る筈がない。
本来響いた音は鋼。
ただ、それを鈴の音と変えるだけの美しさを、その騎士が持っていただけ。
「問おう。貴方が、私のマスターか」
闇を弾く声で、彼女は言った。
「召喚に従い参上した。
これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。こに、契約は完了した」
そう、契約は完了した。
彼女がこの身を主と選んだように。
きっと自分も、彼女の助けになると誓ったのだ。
月光はなお冴え冴えと闇を照らし。
土蔵は騎士の姿に倣うよう、かつての静けさを取り戻す。
時間は止まっていた。
おそらくは一秒すらなかった光景。
されど。
その姿ならば、たとえ地獄に落ちようと、鮮明に思い返す事ができるだろう。
僅かに振り向く横顔。
どこまでも穏やかな聖緑の瞳。
時間はこの瞬間のみ永遠となり、彼女を象徴する、青い衣が風に揺れる。
差し込むのは僅かな蒼光。