誰も断らない こちら神奈川県座間市生活援護課
神奈川県座間市の生活援護課を舞台にした書籍。
めちゃくちゃ面白かった。
健康で文化的な最低限度の生活とかも似た話である。
社会的な問題と未知の問題は重なり合う
コミュニティ・オーガナイジングとかでも、社会問題は往々にして社会的にパワーのない人のところに集まると話があった。
これと同じように、市場的なニーズがまだはっきりしてない部分 かつ 政府がまだ扱ってない部分 には社会的な問題が多く存在している。
その問題領域には、何かはっきりとした解決方法(プロダクトや専門領域)があるわけでも、法律のような制度がないような未知の問題が集まる部分がある。
この本でも、まさにそういう間の領域にある社会的な問題が多く出てきなーという感じでそこが面白かった。
言葉を選ばずに言えば、武藤や吉野が関わる困窮者には〝面倒な人〟が少なくない。第1章の志村やペドロのように、自立の意思があり、その実現に向けて前に進める人はそれほど多いわけではない。中には、意思疎通に苦労するような相談者もいる。その中で、武藤が自立相談支援を続けているのは、困窮者支援がAでもBでもない「新しい領域」だから
とか
第2章で触れた大島も、相談者に心ない言葉を投げかけられて、月に一度は落ち込むという。それでも続けているのは、困窮者支援がゴールのない仕事だからだ。 「一般的な仕事であれば、経験を積めば積むほど知らないことはなくなっていきますが、この仕事では、相談が来るたびに新しい課題が次々に出てくる。
とか
はたらっく・ざまの岡田も、初めて会った時の林の一言を覚えている。 「制度を作り、仕様書の通りに運用しても、必ずこぼれる人が出てしまう。そういう人を救うために、制度を柔軟に運用しなければダメだと考えています」
あらゆる制度がそうだが、制度はその制度ができた瞬間に、条件に当てはまらない人が生まれてしまう。もちろん、制度は必要不可欠なものだ。生活保護の利用について、所得や資産で区切らなければ制度として機能しない。身体障がいや精神障がいの障がい等級がなければ、誰にどれだけの年金を支払えばいいのかもわからないだろう。制度の利用条件や範囲を決めなければ、行政サービスを提供することはできない。 ただ、現実を見れば、ある制度の利用条件に当てはまらなくても、その制度を必要としている人は存在する。法律や制度を作った時と、目の前の現実にずれが生じることもよくある話だ。
といった話が出てきて、実際にその領域で出てきた事例を見れたのがよかった。
コミュニティの力: 市場経済における非営利組織(NPO)の機能という論文では、この未知の領域を扱うのがコミュニティであり、NPOなどがここに当たるという話だった。
この書籍は、座間市役所の生活援護課が舞台の話であるけど、こういった問題を市が全て解決できるわけでもない。
なぜなら、衣食住だけじゃなくて仕事とか孤立とか死後とかかなり幅広い問題が重なり合ったのがものが問題として出てくるので、全ての問題を1つの団体で解決するのは相当難しい感じがする。
そのため、NPO法人ワンエイドとかはたらっく・ざまなどのNPO法人と連携して問題の解決に当たるという窓口の役割をちゃんとしていてすごくよかった。
自治体直営の場合、外部連携に慣れていない自治体が多いため、市役所以外の組織との連携が弱くなりがちだ。一方、すべてを外部の組織に委託してしまうと、生活保護との連携が取りにくくなるというデメリットがある。 座間市は外部連携を進めながら直営で制度を運用している 希有 な存在だが、それが可能なのは、林の仲間づくりが秀逸なのに加えて、市の大きさが5㎞四方で収まるほどにコンパクトで、原付バイクに乗れば、 15 分で市境に行けるという地形的なメリットも
この辺の連携がうまくできている点が、この書籍が書かれた理由なんだろなーと思った
生活困窮者自立支援法と生活保護法
生活困窮者自立支援法と生活保護法という2つの違いをあんまり知らなかった。
- 生活保護: 収入が基準以下の人に生活保護費を出して、最低限度の生活の保障を支援
- 生活困窮者自立支援法: 経済的な困窮状態の人に、住居確保給付金の支給、相談支援や就労支援によって自立を促進するための支援
生活保護は収入自体が一定以下じゃない受けられないなど色々な制限があって、実際に収入はあるけど生活に困ってるような人もいる。
なので、生活保護の前段のレイヤーとして生活困窮者自立支援法というのが2015年にできたという話らしい。
自立を促進するための法というのが結構面白い視点で、この本でもこの話が結構できてた。
リーマンショックあたりの影響で作られた法で、まだどう扱えばいいのかわかってない部分もある感じもしたけど、解釈次第で色々できるみたいな感じの使い方をしてるのかなーと思った。
関連する話として、自立が孤立につながるという話もあって、日本伴走型支援協会というところの動画がかなり分かりやすかった。
お金とか住居的な支援だけして自立させたつもりになるけど、コミュニティ的に孤立するので別の問題が起きたり根本の問題が解決しなかったり。
たとえば、座間市でも18%ぐらいが生活保護を受けている計算になるけど、高齢者が多い。
これは被保護者調査見ても高齢者の割合は多い。
前述したように、座間市の生活保護利用者は2021年 11 月時点の速報値で2353人と全人口の 17・88‰に上る。最近は単身高齢者が増えており、病院や介護施設との連携は以前にもまして重要になっている。
なので、単純に自立させただけだと、「その人の死は誰が看取るのか」問題が出てくる。なので、自立が孤立につながると根本の問題が解決しないという話だった。
書籍中でも、ケースワーカーの人が訪問して最後を看取る話とかもあったので、この辺が難しい問題なんだろなーと思った。
寄付の文脈でも、Charityだと根本的な問題は解決しないので、Philanthropyという言い方をしてるとかも同じような話なのかなーと思った。
チャリティ(Charity) = 問題を軽減する = 魚を与える
慈善活動(Philanthropy) = 問題を解決する = 魚の釣り方を教える
この書籍は4-5コぐらいの実際のケースを紹介しながら書かれてるんだけど、200-300ページなのですごい内容が詰まっている感じがしてよかった。