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Introduction(導入)

Ayame Otsuki edited this page Jan 14, 2019 · 66 revisions

1.1 研究の背景

 OSMにおいてどのような編集ツールがあれば、より多くの建物データが集まるのか。この疑問を抱いたのは筆者が大学3年生の終わりの時である。当時、短期間で京都の下京区エリアにおいてOSMの「building」データを約1万件以上、編集・追加する作業をPCを用いて行なっていた。その時、私はこの地図の編集作業がスマートフォンでできないだろうか、もっと効率的な建物データの描き方はないだろうかと疑問を抱いたのである。またそれと同時に、人口密集地区においてもまだOSM上に建物データが不足しているエリアがあるのだということに再度気付かされた。筆者は大学に入学してからすぐにOSMに出会い、入学した4月にはもうiD editorというPC用の編集ツールを使って、OSMを編集していた。また、「State of the Map」というOSMのカンファレンスにも「State of the Map Internatinal 2017」、「State of the Map Asia 2017」、「State of the Map Japan 2018」と3回参加したことがある。これらのカンファレンスに参加することでOSMの成長を体感でき、また今後の発展の可能性も知ることができた。今回卒業論文を書くにあたり、筆者の大学生活を大きく変革してくれたOSMに感謝の気持ちを形に表したく、このようなテーマでOSMを分析することで何らかの貢献をしたかったのである。

1.2 地図のライセンス事情

 OSMにはなぜ「オープン」という言葉が入っているのか。それはOSMという地図はライセンス上、非常にオープンだからである。地図の利用規約の比較材料として「Googleマップ/Google Earth」を活用する。株式会社Googleが定める公式ホームページに載っているGoogleマップ/Google Earthの利用規約の禁止行為の中に「Googleマップ/Google Earthの一部を再配布または販売すること、Googleマップ/Google Earthに基づいて新しい商品やサービスを作成すること(利用規約に従う Google マップ / Google Earth の API 使用を除く)」「コンテンツをコピーすること(Googleマップ、Google Earth、ストリートビューの使用許諾ページまたは「フェアユース」を含む知的所有権に適用される法律で許可されている場合を除く)」と記されている。これはつまり、Googleマップを無断で紙地図に印刷することを禁止している。株式会社ゼンリンは住宅地図を1枚300円(税込)で販売している。それに対してOSMの地理データは、当初はCC-BY-SAだったが、2012年9月12日にライセンスがOpen Database License (ODbL) 1.0に切り替えられた。Open Database License(ODbL)とは自由なライセンスのもとで配布されていて、地図を印刷する場合も印刷物や商品のどこか、あるいは配布元サイトなどのなかにOSMのデータを利用していることを記載すれば自由に使うことができる。商用利用も許可されているため、OSMを活用している有名な企業も多くある。地図という人々の生活に身近に存在する情報が、オープンになるということは情報格差を是正するということである。以前は地図とは軍事秘密の立ち位置にあったわけだが、今日ではオープンなものに変化を遂げているのである。このライセンス上の観点において、OSMは非常に柔軟な地図サービスだと言える。

1.3 OpenStreetMapの歴史

 そもそも“OpenStreetMap”とは、オープンでフリーな市民の草の根の力で作られる地図である。Wikipediaの地図版と呼ばれている。その理由としては、OSMはボランティアのマッパーによって地図が作られているからだ。そんなOSMは2004年に、スティーブ・コーストという人物が当初はイギリスに焦点を当てた地図作りのために作られた。そして2006年8月22日にOpenStreetMap Fundationが設立され、またこの年にJOSMというOSMの編集ツールのバージョン1がリリースされた。2008年以降、OSMに登録しているユーザー数は下記のグラフの通り、着実に増えている。 https://wiki.openstreetmap.org/wiki/File:Osmdbstats1_users.png  またデータとしては若干古い2015年版だが、下記のグラフは国別のユーザー数を示している。上位20カ国のうち、ドイツ−アメリカ-ロシア-フランス-英国の順でユーザー数が多く、日本は16位という結果であった。 https://www.openstreetmap.org/user/SimonPoole/diary/40246

1.4 OpenStreetMapのデータ分析

1.4.1 OpenStreetMapのデータ分析- 統計

 まずは下記のOSMにおける、点(Nodes)、線(Ways)、リレーション(Number of Relations)のデータ統計のグラフから、全体的に、とりわけ点のデータが年々増えていることがわかった。2007年の10月から2008年の1月の約3ヶ月間にデータ量が大幅に増え、2009年からグラフ上で右肩上がりに通算データ量が増えていることが読み取れた。 https://wiki.openstreetmap.org/wiki/File:Osmdbstats2.png  また下記の線(Ways)、リレーション(Number of Relations)のみのデータ統計のグラフを見ると、リレーションに比べて線のデータが劇的に増えていることが読み取れる。上記のグラフからは点のデータ量が多すぎて発見しづらかったが、下記のグラフは線、つまり道路等のデータがOSM上に着実に増えていることを示している。 https://wiki.openstreetmap.org/wiki/File:Osmdbstats2Ways.png

1.4.2 OpenStreetMapのデータ分析- building

 次のOSMのデータ分析として、"建物"つまりOSM上での"building"データについて分析する。OSM上にある"building"という属性(タグ)、つまり建物として登録されているデータは2019年1月6日00:58(UTC)現在、329,208,612個あった。この約3億3千個の建物のデータは大量だとわかるが、簡単に世界人口が75億人だとして5人に1件建物があるとすると15億個の建物が実世界には存在することになる。もちろんこの5人に1件の建物を割り振る目安は強い根拠を持つものではなく、建物数は国や地域によって大きく異なるものであり、商業用施設など様々な建物が存在するわけだが、ここではこのOSM上にある約3億3千個の建物が、実世界の全ての建物を網羅できているわけではないという例だと考えてもらいたい。全世界を対象にすると、データ量が莫大で感覚的にしかデータ量が掴めないため、次にエリア別の分析を行った。 https://taginfo.openstreetmap.org/keys/building  

 下記のグラフはOSM上にある建物(building)データの世界分布地図である。 https://taginfo.openstreetmap.org/keys/building#map

1.4.3 OpenStreetMapのデータ分析- エリア別

 OSM上のデータ分析をする際、どの地域かというエリアを意識した分析は非常に重要な観点である。なぜなら、そもそも人のいないエリアには建物や道といったものが実世界に存在しなく、そのため地図のデータ量も少なくなるからだ。地図インフラ格差については、そもそもそのエリアに地図に記載すべき情報があるのか、人口集中地区だが地図上に情報がないというケースなのかを見極める必要がある。下の2つの地図は日本の東京エリアと、モンゴルの山奥のOSMの比較である。2つの地図のズームレベルは等しい。結果は一目瞭然で、データ量の違いがわかった。しかしこの場合は、問題提起するべき地図インフラ格差の課題とは指摘できなかった。なぜならこのモンゴルの山奥の地帯には暮らしている人がいなく、おそらく詳細な地図が必要とされていない、もしくは地図に載せる地物データがないと判断できたからだ。

  • 東京エリア Tokyo-https://www.openstreetmap.org/#map=14/35.6842/139.7251  
  • モンゴルの山奥 Mongolia-https://www.openstreetmap.org/#map=14/45.2946/97.2338

 次に人がいないエリアは切り捨て、人がいる所には建物があるという前提で、人口集中地区における地図インフラ格差をOSM Analytics Toolを用いて分析した。OSM Analytics ToolはHOT(Humanitarian OpenStreetMap Team)が開発したOSMのマッピングの進捗度合いの視覚化及び分析ツールである。  

  • 全世界の"Building"タグが付いているデータ分布図 https://osm-analytics.org/#/ 全世界の分布図を見ると、建物データが多いエリアと少ないエリアが一目でわかった。人口がもっとも多い中国では、ヨーロッパ地域と比べて建物のデータ量が非常に少ない。また人口が2番目に多いインドにおいては、オランダの地図会社から古いインドの地図をOSMに寄付された過去があり、当時、インドのOSM上のデータが一気に増えた。それを踏まえてもインドにおける、OSM上の建物データ量は人口に比べて十分では言えないことが上記の図から読み取れた。  

  • ヨーロッパ周辺のOSM建物密度 https://osm-analytics.org/#/   

  • 特に建物密度の濃いフランスとドイツ https://osm-analytics.org/#/ ヨーロッパはOSMの発祥の地だけあって、建物のデータ量が他のエリアと比べると目立って多かった。特にフランス、ドイツ、オランダ、ベルギー、チェコ、スロバキアはヨーロッパの中でも非常に建物のデータが詰まっていた。

  • 米国全域のOSM建物密度 https://osm-analytics.org/#/ 米国はこのように見ると、ヨーロッパと比較すると建物のデータが少ないことがわかった。人口が密集しているカリフォルニア州(西南海岸沿い)やテキサス州、東海岸沿い地域に注目しても、まだまだデータ量としては不十分だった。また米国では大きな国道80号などに沿って、建物入力が進んでいることも確認できた。建物のデータではないが米国においては、州ごとに道路データをOSMに大規模にインポートした過去があった。  

  • アフリカ中心部のOSM建物密度 https://osm-analytics.org/#/ アフリカについては2014年のエボラ出血熱の大流行など、様々な課題に向き合う人たちが世界中からマッピング作業を行なった。HOT(Humanitarian OpenStreetMap Team)を含め、人道支援組織が遠隔アームチェアマッピングとしてコミットしている成果が反映されていた。

  • 日本周辺のOSM建物密度 https://osm-analytics.org/#/ 関東などの人口密度が高いエリアの建物データが多いことは読み取れたが、次の章で日本におけるデータ分析を詳しく行った。

1.4.4 OpenStreetMapのデータ分析- 日本

 日本におけるOSMの建物データ分析として、OSM Analytics Toolと国土地理院の地理院地図を用いて人口集中地区 平成27年版(総務省統計局)レイヤーを重ねて各地域を比較した。

  • 首都圏近郊の地理院地図(人口集中地区) https://maps.gsi.go.jp/#9/35.639581/139.725258/&base=std&ls=std%7Cdid2015&blend=0&disp=11&lcd=did2015&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0f1&d=vl

  • 首都圏近郊のOSM建物密度 https://osm-analytics.org/#/ 関東首都圏近郊を見ると、横浜市の南エリアや、江戸川区から北に数キロ、そして千葉県の北西海岸沿いに人口に対して建物のデータが少ないことがわかった。浅草・下町から北上して国道4号線周辺、春日部付近まで建物空白エリアとなっていた。ズームレベルをあげて分析すると、一見建物が網羅的にカバーされているように見えるエリアにおいても、斑があることがわかった。

  • 名古屋、大阪周辺の地理院地図(人口集中地区) https://maps.gsi.go.jp/#9/34.818903/136.117290/&base=std&ls=std%7Cdid2015&blend=0&disp=11&lcd=did2015&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0f1&d=vl

  • 静岡、名古屋、大阪周辺のOSM建物密度 https://osm-analytics.org/#/ 名古屋の南エリアや大阪の南や東側も人口集中地区であるが、建物の情報量が少なかった。それに対して静岡県の海外沿いエリアは、人口集中地区ではないにも関わらず、OSM上に建物データが多く描かれていることがわかった。

  • 四国、九州の地理院地図(人口集中地区) https://maps.gsi.go.jp/#8/32.528452/131.426718/&base=std&ls=std%7Cdid2015&blend=0&disp=11&lcd=did2015&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0f1&d=vl

  • 四国、九州のOSM建物密度 https://osm-analytics.org/#/

  • 熊本のOSM建物密度、2015年バージョン https://osm-analytics.org/#/

  • 熊本のOSM建物密度2016年バージョン https://osm-analytics.org/#/ 九州、四国エリアの人口集中地区では熊本県の震災の影響が大きかったエリアのマッピングが進んでいることがわかった。これをOSM Analytics Toolの時間軸解析ツールを使って、いつの時期に入力されたのかを確認してみた。 2015年と2016年のデータ量の違いは一目でわかる。これは紛れもなく世界中のマッパーが協力して、震災後にOSMの熊本エリアの建物データを一気に追加した成果である。   

 今回OSM上の建物データを分析して気が付いたことは、OSMにおける建物のデータはヨーロッパが他のエリアと比較して非常に進んでいるということと、日本国内の人口集中地区におけるOSMの建物のデータがまだまだ不足している箇所があったということである。

1.5 OpenStreetMapの編集ツール紹介

 OSMの中の地図を編集するための編集ツールには、大きく分けてPC用とスマートフィン用がある。本論文では有名なOSMの編集ツールとしてPC用の"JOSM"、 "iD Editor"、"Field Papers"と、スマートフィン用の"maps.me"、"Mapillary"、 "OpenStreetCam"、"Go Map!!"、"Mapswipe"を紹介する。PC用にはソフトウェアをインストールするタイプのスタンドアローンタイプと、ブラウザ上で稼働するブラウザタイプの編集すツールがある。PC用のOSMの編集ツールには、2011年から2014年まで多く使用されたスタンドアローンタイプの中級利用者向けの"Potlatch 2"があるが、本論文では次世代の編集ツールに着目することからこれを省く。

1.5.1 OpenStreetMapの編集ツール紹介- JOSM

 JOSMとは、「JOSM=Java OpenStreetMap」というPC用の編集ツールであり、一度に大量のデータを編集する際に便利で、オフラインでも編集作業が可能である。しかしJOSMはJava実行環境がインストールされている必要がある。すなわち自身のPCにオラクル社のJavaをインストールしなければならない。スタンドアローンタイプ、とりわけJOSMの利点はオフラインでもOSMの編集が可能なところだ。オフラインで編集して変更データをアップロードする時だけネットワークにつなげれば良い。またJOSMにはプラグインという機能あり、個人が使用しやすいようにツールバーをカスタムすることができる。さらに道路などの線データに対して平行もしくは直角に建物データを簡単に描くことができる仕様になっている。"building"のプラグインをツールバーに追加し、それを使用すると建物は対角線上の建物の角を3箇所クリックすると四角形の建物が一軒分描くことができる。JOSMの欠点は時折Java自体をアップデートしなければならないことだ。その点において、ブラウザタイプは編集ツールをブラウザで開くたびに、毎回デフォルトで最新版になっているため一手間省くことができる。JOSMのインターフェースとしては、他の画像編集ツールのように左端の一列に編集用のツールバーが並んでいる。初めてJOSMを使用するユーザーにとって馴染みやすいユーザーインターフェースだ。その反面、地図編集用の適応なプラグイン機能の追加には、初見では何のプラグイン機能が自分に必要な機能なのかという判断が難しい。JOSMで地図を編集する時には、OSMサーバから背景地図のデータをダウンロードする必要がある。背景地図の情報をダウンロードしてから、自身が編集したデータをアップロードするまでオフラインで作業ができるが、オフラインでの編集作業になるためその期間にリアルタイムで他者と編集している箇所が被らないことがデータの重複を避けるために重要だ。複数人で同じエリアを編集する際は、あらかじめ作業箇所を明確に割り振ることが望ましい。JOSMは短時間に大量の建物データを入力する作業に適している編集ツールである。

  • JOSMのユーザーインターフェース JOSM

1.5.2 OpenStreetMapの編集ツール紹介- iD Editor

 iD EditorとはPC用のブラウザタイプのOSM編集ツールである。またiD Editorはシンプルでわかりやすい編集ツールの確立を目的としている。ブラウザタイプゆえに基本的にはオンラインの環境下でiD Editorを立ち上げて使用する。2013年5月以降、OpenStreetMap.orgのホームページでOSMを編集する際、iD Editorを使用することができる仕様になった。iD EditorはPC用の編集ツールの中で、最も初心者がわかりやすく使いやすい編集ツールになっている。iD Editorの良い点は操作が簡単でわかりやすいことだ。また背景地図の変更においても、衛星写真などへの変更も容易である。iD Editorはブラウザタイプなのでユーザー自身で編集ツールのバージョンをアップデートする必要がない。反対にJOSMと比較して作業効率が悪い点としては、コピーアンドペーストで地物データを増やすことができる機能は便利だが、追加したい建物の形状が異なる場合、コピーアンドペーストが使用できないため建物入力の際、建物の角を全部クリックしなくてはならないことが少し不便である。iD Editorは建物入力の際、デフォルトで直角補正がされないため、自身で一手間加えて直角補正をしなくてはならない。また建物の形状を描いた後に、そのデータへの属性を加える作業を毎回手作業で行わなければならない。したがってiD Editorは、建物のデータを短時間に大量に入力作業をするというよりは、少量のデータを編集する際に便利である。

  • iD Editorのユーザーインターフェース iD Editor

1.5.3 OpenStreetMapの編集ツール紹介- Field Papers

 Field Papersとは、ツール名にも入っているようにペーパー、つまり紙として印刷して使うOSMの編集ツールである。Field Papersの使い方は実際に地図を紙にして現場に持って行き、その場で印刷した紙地図に情報を手書きで加える。そしてその紙をスキャン又は高画質のデジタルカメラで撮影し、Field Papersのサイトへアップロードする。アップロードした紙地図のデータはJOSMで読み込むことができ、JOSMで紙に描かれた情報を参照してOSMを編集することができる。Field Papersの仕組みとしては、紙地図として印刷すると紙の下の方にQRコードが記載される。このQRコードには印刷した部分の位置情報が入っていて、JOSMでデータを読み込む際にQRコードから対象の場所を判別し、JOSMで表示される仕組みになっている。PCを使用する作業が苦手な人も、Field Papersのサイトに自分が情報を書き込んだ紙地図をスキャンしアップロードしておいて、自分が調査した箇所のデジタル地図の編集作業は他人に任せるという役割分担も許可されている。これらの観点からField Papersは現場での調査向きな編集ツールであると言える。

  • Field Papersのサイト Field Papers

1.5.4 OpenStreetMapの編集ツール紹介- MAPS.ME

 MAPS.MEとはスマートフォン用の地図の観覧用アプリケーションである。背景地図はOSMを使用しており、事前に特定のエリアの背景地図をオンライン時にダウンロードしておくと、オフラインでもそのエリアの地図を観覧することができ、かつそのエリア内にいるとき自分の現在位置も表示することができる仕様になっている。またmaps.meには認知度はそんなに高くないが実は背景地図であるOSMを編集する機能もある。具体的には、POIデータと言われる、点(point)としての情報をOSMに追加でき、さらにその点の情報に特定の属性やさらに住所などの詳細な情報を付加することができる。MAPS.MEでは、線(line)や面(polygon)の編集はできない。本来、地図の観覧がMAPS.MEの目的なため、開発側がそこまで編集機能に特化ししたアプリケーションにする必要がないと判断した結果である。

1.5.5 OpenStreetMapの編集ツール紹介- Mapillary

 Mapillaryとはスマートフォン用のストリートビュー作成用アプリケーションである。Mapillaryではストリートビュー作成だけではなく、観覧も可能である。Google Mapsにストリートビューがあるように、OSMにもストリートビューがあり、それは主にMapillaryというツールを用いて作成されている。Mapillaryと似た機能を持つツールとして、OpenStreetCamというスマートフォン用のストリートビュー作成用アプリケーションがあるが、Mapillaryの方が現在ストリートビューのデータを多く持っている。Mapillary内にあるの画像は、OSMをiD Editorで編集する際、iD Editorには「地図データ」設定内に「写真の重ね合わせ(Mapillary)」機能があるため、簡単に参照することができる。またJOSMにも、「JOSM plugin for Mapillary」という機能があり、Mapillary内にあるの画像を参照しながら地図の編集作業を行うことができる。Mapillary内の画像のライセンスは、2014年4月29日にCC-BY-NCからCC-BY-SA(Creative Commons Attribution-ShareAlike 4.0 International License) へ変更された。

1.5.6 OpenStreetMapの編集ツール紹介- Go Map!!

 Go Map!!とは OSMにおいて、既存の情報を編集したり、新規に作成・追加することができるiOS専用のアプリケーションである。iOSのみに対応していることからiPhoneシリーズのスマートフォンのみにリリースされている編集ツールである。Go Map!!ではPOIデータと言われる点の情報や線、ポリゴンと言われる面の情報の形状を追加することができ、その形が何なのかを示す属性、その他にも標高など細かい情報をOSMに加えることができる。外出中PCを持っていない時に、iPhoneのみでOSMを編集できるので非常に便利である。しかしiPhoneシリーズのスマートフォンでしか使用できない点と、スマートフォンという小さい画面の中で多様な地図の編集機能が実装されているため、Go Map!!のユーザーインターフェースは初心者からは他の編集ツールと比較すると多少、編集作業が困難に感じるかもしれない。

1.5.7 OpenStreetMapの編集ツール紹介- MapSwipe

 MapSwipeとは衛星画像を元に、地図を用いて人々を支援するため作られたアプリケーションである。MapSwipeはiOSとAndroidの両方のアプリケーションを対応させている。機能としてはスワイプ作業で衛星画像をめくり、建物等が見えたらタップして建物がある印をつけることができる。そして割り振られたタスクが完了するまでスワイプを続け、建物を発見するゲーム感覚で操作できるツールである。MapSwipe内では、アカウントのレベルアップ機能もあるので非常にゲーム感がある。また1タスク終わるごとに「Good job!」とディスプレイに表示されるため、達成感と人道支援に貢献したという満足感が得られる。しかしMapSwipeは、上記に紹介したような編集ツールとは異なり、OSMの地図データ直接を編集したり、OSMにストリートビューを追加できるわけではないので、直接的というよりは間接的にOSMのデータ追加に貢献しているツールである。Mapswipeでの衛星画像チュックの対象エリアは、国境なき医師団等の派遣先のタスクが多い。MapSwipeで得られたデータはHumanitarian OSM Teamという団体が作ったHOT Tasking ManagerというOSMのマッピングツールの対象エリアの絞り込みに活用されている。

1.6 OpenStreetMapの編集ツールとデータ分析

 この章では、OSMのデータはどの編集ツールを用いて作られたデータが多いのかを分析し、OSMにおける編集ツールの使用状況の変化やユーザー数を分析する。

  • by number of users (distinct uids) https://wiki.openstreetmap.org/wiki/Editor_usage_stats https://wiki.openstreetmap.org/wiki/Editor_usage_stats 上記のグラフは、各編集ツールにおけるユーザー登録をされたユーザー数を、全編集ツールのユーザー数と比較したものである。このグラフから2009年〜2010年は全体の8割以上のユーザーがPotlatch 0.x/1.xを利用していることがわかった。2011年〜2013年ではPotlatch 2のユーザー数が比較的多く、全体の5割以上であった。2014年〜2018年ではiD Editorのユーザー数が全体の中で一番多かった。JOSMについては2009年〜2018年の期間、全体の1〜2割程度のユーザー数にとどまっていた。

  • by number of changesets https://wiki.openstreetmap.org/wiki/Editor_usage_stats https://wiki.openstreetmap.org/wiki/Editor_usage_stats 上記のグラフは各編集ツールにおけるチェンジセット数、つまり編集した情報をアップロードした回数を、全編集ツールを用いて行われたチェンジセット数とで比較したものである。このグラフから2013年まではJOSMやPotlatchシリーズが全体の大半を占め、2014年からはiD Editorが約半数を占めていることがわかった。また2016年〜2018年では、少量だがmaps.meなどのスマートフォン用の地図観覧用のアプリケーションからも編集した記録が読み取れた。

  • by number of edits https://wiki.openstreetmap.org/wiki/Editor_usage_stats https://wiki.openstreetmap.org/wiki/Editor_usage_stats https://wiki.openstreetmap.org/wiki/Editor_usage_stats 上記のグラフは各編集ツールにおける通算編集数を、全編集ツールを用いて行われた編集数とで比較したものである。このグラフから2010年〜2018年までJOSMが全体の7割前後という結果だとわかった。しかし2017年〜2018年はiD Editorが全体の3割弱を占める結果となり、今後の増加が予想される。    

  • The plot is linear by market share of the major editors in percent and should be more easily comprehensible than logarithmic scales. https://wiki.openstreetmap.org/wiki/Editor_usage_stats

 全体の傾向として、PC用のスタンドアローンタイプの編集ツール(JOSM等)よりウェブブラウザベースの編集ツール(iD Editor)のチェンジセット数の方が全体に占める割合が近年は多いが、実際のデータの編集数ではJOSMが圧倒的に多いことがわかった。一度のチェンジセットで多くの編集作業をする際はJOSMのようなPC用のスタンドアローンタイプの編集ツールの方が人気があった。OSMの各編集ツールのユーザー数、チェンジセット数、編集数と3つの観点からOSMのデータ編集歴をたどると新たな発見をすることができた。

1.7 問題提起

 ここまで序論として、OSMに関する様々な分析をしてきた。結論として、人口集中地区においてOSMにはまだ建物データが足りていないことがわかった。またOSMの編集ツールにおいて建物を入力する際に、より効率的な入力方法があるのではないかと、各編集ツールを実際に使用した体験を元に、問題提起をする。建物の形状が四角形であるケースが多いという事実を前提に、地図上により効率的に建物を描くことができないのかという課題に本論文では取り組む。OSMの編集ツールとして、ここ4年間のユーザー数が1番多く、近年のOSMにおいてチェンジセット数が全体の過半数を超えるPC用のウェブブラウザタイプの編集ツールiD Editorの存在、ここ2年間で少量ながらOSM上にデータをアップロードしているスマートフォン用のアプリケーションであるの編集ツールの存在を考慮して、建物入力のみに特化した新しい編集ツールの必要性を提案する。iD Editorはウェブブラウザタイプの編集ツールであるが、PCでのみ使用することができる。ウェブブラウザタイプの編集ツールで、デバイスのOSに依存せずスマートフォンでも使用できる編集ツール、かつスマートフォンのアプリケーションのような挙動とユーザーインターフェースを実現できる編集ツールがあったら、今までより簡単に手頃に、さらに現場にいながら片手で建物のデータをOSMに入力することができる。私はこの課題に対して効果的な編集ツールの開発と、効率的な建物入力の手法を研究する。

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